本研究は、イネのライフサイクルにおいて、細胞内タンパク質分解システム・オートファジーが果たす役割について明らかにすることを目的とし、その成果を基盤に米の生産性や品質のさらなる向上に向けた応用研究の展開を目指すものである。今年度は、光合成速度が低下しエネルギーが制限される弱光環境下において、オートファジーがイネの栄養成長にどのように貢献しているのか解析した。 イネのオートファジー欠損変異体(Osatg7-1)と野生(コントロール)体を播種後42日までガラス温室内にて同一条件で水耕栽培した後、対照区と約20 %の光強度とした弱光区を設け播種後70日目まで栽培した。播種後70日目の段階で、遺伝子型に関係なく弱光区では対照区と比べて個体バイオマスが低下した。弱光区でのバイオマスの低下は野生体でより大きく、対照区において見られたOsatg7-1と野生体とのバイオマスの有意な差は、弱光区では見られなくなった。一方で70日目の個体の窒素量は、対照区と弱光区、また遺伝子型間においても差が無かった。そのため単位窒素量当たりの乾物重で表される窒素利用効率は、Osatg7-1では野生体より両区で低下するが、弱光区では両者の差が対照区よりも縮まった。このことから、弱光環境での窒素利用効率にはオートファジーはあまり寄与していないことが示唆された。そこで弱光処理を行う前の42日目の段階で完全展開していた葉身が、弱光処理下でどのように老化していくか調べた。その結果、弱光区では対照区と比べてクロロフィルや可溶性タンパク質といった窒素成分の分解が抑制されており、老化が緩やかに進んでいることが分かった。以上より、イネの栄養成長におけるオートファジーの貢献度は、光合成速度が低下し生育が抑制される弱光環境下よりも、光合成速度が保たれて成長が促進される光十分環境のほうが高いことが明らかとなった。
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