研究概要 |
乳酸菌が生産する抗菌ペプチド、バクテリオシンは、安全性の高い抗菌物質として様々な分野での利用が期待される。これまでに様々なバクテリオシンを見出してきたが、それらの実用と生合成機構を利用した新奇抗菌ペプチドの創出への展開を図るため、新奇乳酸菌バクテリオシン群の生合成と抗菌作用の分子機構の解明を試みた。また、さらに新奇乳酸菌バクテリオシンの探索を行った。Enterococcus faecium NKR-5-3は、5種のバクテリオシン様ペプチド、enterocin NKR-5-3A,B, C, D, Zを生産し、enterocin NKR-5-3Aを除く4種が新奇な構造を有していた。とくに、enterocin NKR-5-3Cは、高い抗リステリア活性を有する、クラスIIaに属する新奇バクテリオシンであった。一方、enterocin NKR-5-3Dは、enterocin NKR-5-3Bを除く4種のペプチドの生産誘導活性を有していた。多成分バクテリオシン生産株であるE. faecium NKR-5-3は、培地や培養温度などの環境に応答し、生産誘導ペプチドを介して各バクテリオシンの生産を制御することが明らかとなった。一般にバクテリオシンはリーダーペプチドを伴う前駆体として合成され、リーダーペプチドはバクテリオシンを菌体内で不活性化することで生産株を保護し、菌体外分泌時の標識として利用される。しかし、リーダーペプチドを持たないリーダーレスバクテリオシンが見出され、それらは一般のバクテリオシンとは異なる機構によって生産されることが予想される。リーダーレスバクテリオシンであるlacticin Qとlacticin Zは、それぞれ生合成遺伝子群1ngBCDEF、1nzBCDEFの働きによって生産・菌体外分泌が行われることが明らかとなった。リーダーレスバクテリオシンは翻訳後直ちに抗菌活性を有するが、これらの遺伝子群は菌体内外において、生産したバクテリオシンの抗菌活性から生産株自身を保護する自己耐性機構にも関与することが示された。他に、3種の環状バクテリオシンの生合成に関わる遺伝子群を同定した。
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