研究課題
(1)分子設計法によるLC-cutinaseの高活性化と安定化:基質結合部位のTyr95をPheに置換することによりLC-cutinaseを安定化することに成功した。LC-cutinaseは平衡論的にも速度論的にも極めて安定であることを明らかにした。また、LC-cutinaseのC末端領域に存在するジスルフィド結合(Cys275-Cys292)は平衡論的にも速度論的にもLC-cutinaseの安定性に寄与することを明らかにした。さらに、PEGや長鎖の基質が結合すると活性部位が安定化するため、LC-cutinaseの活性の至適温度が向上することを明らかにした。(2)LC-cutinaseの大腸菌菌体外漏出機構の解析:昨年度に引き続き、N末端領域の欠失変異体を各種構築し、菌体外漏出を解析した。その結果、13番目から23番目あるいは23番目から33番目のどちらの領域を欠失させてもほとんど漏出しなくなることを明らかにした。この結果、LC-cutinaseの特定の領域が漏出に必要なわけではなく、全体の構造が漏出に必要であることが示唆された。(3)Tk-subtilisinとTk-SPの高機能化と大量生産: Tk-SPの活性中心変異体を用いることにより、EDTA処理しても安定性の低下しない変異体の構築に成功した。また、Pro-Tk-subtilisin変異体を低温で成熟化することにより、従来より約10倍の濃度でTk-subtilisinを成熟化することに成功した。さらに、Tk-subtilisinのプロペプチド(Tkpro)と共発現することにより、Pro-Tk-SPの生産量を約20倍向上させることに成功した。(4)Tk-subtilisinとTk-SPによる異常プリオン分解:プリオン病に感染したマウスの脳からとりだした異常プリオンタンパク質をTk-subtilisinで分解した後、正常マウスの脳に注入し、プリオン病の発症を観察することにより、分解産物の感染性を解析した。その結果、Tk-SPで分解する方法は熱処理、SDS処理などの従来法より感染性除去効果が高いことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
目標としていた、1)LC-cutinaseの高活性化、2)LC-cutinaseの安定化、3)LC-cutinaseの大腸菌菌体外漏出機構の解明、4)Tk-subtilisinとTk-SPの高機能化、5)Tk-subtilisinとTk-SPの大量生産、6)Tk-subtilisinとTk-SPによる異常プリオン分解機構の解明、のうち、2)、3)、5)についてはほぼ完全に目的を達成したため。また、1)、4)、6)についても、来年度中に目的を達成できる目途がついたため。
LC-cutinaseの漏出シグナルの同定に関する研究は今年度で終了する。LC-cutinaseの高活性化と安定化、Tk-subtilisinの高機能化、Tk-SPのキレート剤に対する安定化と高活性化、Tk-subtilisinやTk-SPによる異常プリオンタンパク質分解機構の解析に関する研究は今後も引き続き取り組む。また、新たに、メタゲノム法により単離した新規セルラーゼの構造と機能の研究に取り組む。
本研究課題は3年の予定で実施しており、今年度はその2年目となる。本研究はここまでおおむね順調に進展しているが、当初の研究目標を達成するためには、次年度(最終年度)の予算がやや不足することが心配される。なぜなら、最終年度の予算は1、2年目よりかなり少ないからである。そこで、この不足分を少しでも補うために、今年度の予算のうち約19万円を次年度に繰り越すこととした。なお、繰り越し額はそれほど多くないので(今年度の直接経費の約4%)、今年度の研究の進展に対する影響はない。次年度に繰り越した基金助成金約19万円は物品費や旅費に充当する。
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