研究課題/領域番号 |
24380065
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸塚 護 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (70227601)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 乳酸菌 / フィトケミカル / 腸管上皮細胞 / 制御性T細胞 / IgA抗体 / カルノシン / インフルエンザウイルス |
研究概要 |
in vitroにおいて制御性T細胞を誘導する活性が明らかにされているナリンゲニンが経口免疫寛容誘導に与える影響について、DO11.10マウスに卵白アルブミン(OVA)含有水を自由摂取させて経口免疫寛容を誘導するモデルを用いて解析した。ナリンゲニン経口投与群では、対照群と比較してT細胞の増殖応答、サイトカイン産生、制御性T細胞誘導に有意な差は認められなかった。一方、経口免疫寛容誘導を増強する効果をもつLactococcus lactis C59株の生菌体とナリンゲニンを同時に経口投与した群では、C59単独投与群と比較してさらにT細胞の増殖応答、IL-2産生量の低下が認められ、同時投与群でのみ制御性T細胞の誘導の増強が観察された。これらの結果からC59株とナリンゲニンが相加的あるいは相乗的に働いて経口免疫寛容誘導を強化することが示された。 0.5%カルノシンを含む飲用水を2週間自由摂取させたBALB/cマウスでは鼻腔洗浄液中のIgA抗体量が増加する傾向が観察された。同様にカルノシンを投与しインフルエンザウイルスを感染させたマウスで体重変化および感染4日後の鼻腔洗浄液、気管支肺胞洗浄液中のウイルス感染価について調べた結果、ともにカルノシン投与による変化は観察されず、感染防御亢進効果は認められなかった。インフルエンザウイルスワクチンとともにカルノシンをマウスに経鼻投与し、抗インフルエンザウイルスIgA、IgG抗体量を調べたところ、血清中抗インフルエンザウイルスIgG抗体量が増加する傾向が示された。経口投与した場合に腸管におけるIgA抗体産生は増加するが鼻腔での感染防御亢進効果がないことを考えると、カルノシンの免疫増強効果は主に投与した局所で起こることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
制御性T細胞誘導能を有するナリンゲニンは単独投与では経口免疫寛容誘導を促進しないが、乳酸菌L. lactis C59株生菌体との同時投与で免疫寛容誘導を増強することを明らかにした。また、異なる乳酸菌株との組み合わせでは増強効果が認められないことも示され、有効な組み合わせが存在することが明らかとなった。カルノシンについてはインフルエンザウイルス感染に対する防御効果を検討したが、今回の実験条件では感染防御効果は観察されなかった。カルノシンは投与した局所で粘膜免疫増強効果を示すことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
制御性T細胞を誘導する食品因子の探索をさらに進めるとともに、今年度終了した挑戦的萌芽研究での成果である制御性B細胞を誘導する食品因子についても、さらに同様の活性を有する食品因子の探索を進めていく予定である。また、これらの食品因子がどのようなメカニズムで効果を発揮するのかについても検討を進める。カルノシンの粘膜免疫増強効果に関しては、経口投与した際の腸管でのウイルス感染モデルに対する効果を検討する予定である。また、カルノシンの粘膜免疫増強効果に対する腸内細菌の寄与についても検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は概ね順調に研究を展開することができ、本年度の当初予算分は全て使用したが、初年度の研究計画の遅れにより生じた予算の残額があり、その全額を本年度のみで使用することはできなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度は本研究課題に取り組む人数も増えるため、研究の展開をスピードアップすることが可能であると考えている。そのため、次年度の当初予算に加えて、初年度の残額を合わせて使用することで十分な研究展開を目指していきたい。
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