現代の日本では、多くの人が疲労を自覚しており、特に肉体的疲労というよりも様々なストレスによって引き起こされる精神的疲労(中枢性疲労)をいかに抑制するかが重要な課題である。本研究では、疲労に関わる脳内部位として視床下部や報酬系、辺縁系を想定し、疲労負荷に対する応答を神経科学的に明らかにしてその関与や作用機序を明らかにすることを目的とした。また疲労に関わる脳内機構を神経科学/化学的により広範に明らかにし、食品による疲労の調節への可能性を検討した。 (1) ICSSを用いた疲労度の測定とその応用: κーオピオイドアンタゴニスト投与後に運動負荷し、疲労度への影響を測定したが、長期間実験に供したラットであったためはっきりとした結果が得られなかった。いくつかの有機酸の内、酒石酸摂取が運動による疲労感の発生抑制、あるいはその早期回復に効果を持つ可能性をICSSを用いた測定系で明らかとした。 (2) 疲労感生成、あるいは行動する動機の抑制に関する脳内機序の解明: トレッドミル走行による疲労負荷を行い、動機の形成に重要な側坐核コア部でドーパミン細胞外液濃度上昇を明らかにした。またその経時的変化はシェル部とは異なっていた。 (3) 疲労、あるいはエネルギー代謝調節における信号としての乳酸の機能: ラット腹腔内に乳酸を投与すると脳脊髄液でのTGF-β活性化が起こるが、末梢組織での乳酸濃度検出部位と考えられる肝門脈に直接乳酸を投与してもTGF-β活性化に影響はなかった。 (4) 抗疲労・疲労回復機能を持つ食品のスクリーニング: 強制遊泳によるマウスの疲労に対し、食品の疲労抑制効果を検討するスクリーニング系で、茶カテキン摂取が効果を有することを確認した。ICSSを用いた測定系で酒石酸摂取が運動による疲労感の発生抑制などに効果を持つことは前項で記載した。
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