研究課題/領域番号 |
24380076
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
戸田 浩人 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00237091)
|
研究分担者 |
五味 高志 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30378921)
石川 芳治 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70285245)
崔 東壽 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20451982)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 放射性セシウム / 常緑針葉樹 / 落葉広葉樹 / リターフォール / 有機物移動 / 浮遊土砂 / 萌芽更新 / 里山除染 |
研究概要 |
平成24年度は、森林小流域試験地において放射性核種の動態把握・モニタリング体制を整えた。平成25年度は、同試験地で継続調査を実施し、放射性各種の移動に森林タイプと地形および施業が影響することを明らかにした。すなわち、事故時に着葉状態の常緑針葉樹林と落葉していた落葉広葉樹林では、リターフォールによる放射性Csの林床への供給が異なるとともに、地形が緩やかで林床有機物が移動しにくいスギ林床では有機物層から鉱質土層への浸透が多く、移動性の高い地形と樹種では流亡が示唆された。 河川に侵入した落葉の放射性Cs濃度が林床の落葉と異なり、渓流生態系へ陸域から侵入した有機物の動態の把握が重要であることがわかった。福島の小流域試験地で渓流生物の食物網の解析を行った結果、陸域および水域生態系ともに、スギのリターが重要であることが指摘された。 一方、シカ採食圧により土壌侵食が生じている神奈川県丹沢山地堂平では、放射性Cs濃度が経年により急速に減少し、侵食土壌の量が多いプロットで降雨に伴う流出量が増加した。堂平では流出リターに含まれる放射性Cs量は侵食土壌に含まれる量よりも大幅に少なかった。 また、福島県の里山における萌芽更新および除染試験地では、萌芽更新施業による土壌表層への放射性Csの移動増、萌芽枝による放射性Csの少なくない吸収、リター除去やウッドチップ除染の効果などを把握した。さらに、森林流域出口のダム等がある河畔や休耕田などの地表面の放射性Csは、水流で粒子が移動しやすい場所で少なく、乾性の立地や植生が密生している立地では多く保たれていた。したがって今後は、より細粒な有機物画分に吸着した放射性Csの物理的・生物的な移動が、森林生態系内部の循環と系外への流出を抑制するキーポイントであると考えられた。特に里山の伐採をともなう施業では、細粒有機物の斜面移動を抑止する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の北関東(群馬県みどり市)、南関東(神奈川県丹沢山地)および福島県二本松市における、放射性核種の動態把握・モニタリング体制の確立を受け、各地域・各種森林タイプでの観測が順調に進み概要に示したような成果が得られている。 さらに上述の基礎的研究と並行し発展的な課題として、森林域から農地や生活圏への放射性Csの移動抑制、および里山整備による除染についての調査も展開した。特に里山を背景とした耕作放棄地を放射性Csの沈着した粒子状物質(浮遊土砂や有機物)の沈殿・流出抑制の場として評価を、里山の景観として下層植生の種類と根系の位置、放射性Csの経根吸収による移行係数を調査し、バイオマス量などなら放射性Csを循環系に取り込む量を推定するとともに、耕作放棄地において侵入している植生も同様の調査を行い、森林周辺部の放射性Cs動態も明らかにした。福島県は里山ナラ林からのシイタケ原木生産が全国一であったが、放射性Csが樹皮にも多量に沈着したため使用不可となり、地域の重要な林産物産業の存続が危ぶまれる。平成25年度より本研究の調査地の一つである福島県二本松市東和地区において、地域の方と横浜国立大学・金子信博教授とともに、ナラ林を伐採し萌芽更新させ、伐採木をウッドチップとして林床に設置して放射性Csを吸着・除染試験を実施し、概要に示した成果を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
ひきつづき各地域で①渓流水や浮遊土砂・有機物などのモニタリング調査、②各森林タイプのリターフォールおよびリター移動の調査、③林床でのリター解過程における放射性Cs量の変動を把握し、④微地形が細粒となった有機物とそれに沈着した放射性Csの移動に及ぼす影響を明らかにする。リターは林床での物理化学的分解により、移動性と鉱質土壌表層への浸透性が変化し、より細かく分解されることで(放射性)Csの吸着が多くなると考えられるので、平成25年度にひきつづき⑤調査地の堆積有機物層を詳細に画分し、放射性Csの沈着濃度の把握を進める。そして、森林の鉱質土壌表層では多量に存在する土壌有機物が、粘土鉱物に固定態よりもどの程度多くの(放射性)Csを吸着し、移動性が高い可能性があるか、⑥土壌より逐次抽出で吸着特性の違う放射性Csを取り出し、土壌有機物の寄与率を明らかにする。 加えて発展的な課題として、上述の①、②および④を通して森林域からの放射性Csの流出と蓄積パターンを小流域レベルでの予測図化を試み、細粒有機物が移動・集積・流亡しやすい場所で、バーミキュライト土嚢設置など物理化学的な系外流出抑制について検討する。また、萌芽更新試験地において設置しているバーミキュライト土嚢の効果を継続調査して評価するとともに、萌芽枝の成長にともなう含有放射性Csの変化等を明らかにする。さらに、森林タイプ、萌芽更新などの施業、リター層の除去やウッドチップ敷設といった除染活動が、アリなどの大型土壌動物の行動を変化させ、放射性Csの吸着した有機物の移動に影響を及ぼす可能性を、これまで基礎情報の整っている試験地において把握する。 以上の基礎と応用の調査研究を通して、福島および関東の森林域で必要な放射性核種対策のための情報をとりまとめるとともに、次のさらなる具体的な森林や里山を利用した生活・産業復興に寄与する研究への展開をめざす。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度末に予定していた福島出張を大雪のため見送り、分析に必要な消耗品購入にあてたが、わずかに残額が出たため。 平成26年度の分析に必要な消耗品として使用する。
|