研究概要 |
本研究は,Raffaelea属菌の分類体系を整理し,アジア各地の菌株の病原性を明らかにすることを目的として,以下の3点に着目して研究を進めてきた. 1・アジア地域で採集されたRaffaelea属菌の分類学的な検討 2・アジア地域で採集されたRaffaelea属菌の病原性の検討 3・世界のRaffaelea属菌に関する情報の収集 1では,タイ北部で採取されたRaffaelea様菌株に対して,28SrDNAの塩基配列による分子的性質と分類の基準となる分生子と分生子柄の形状などの形態的諸性質を調べた.DNA解析による分子系統樹は得られた菌株を既存種と明瞭に異なる場所に位置付けた.さらに同一菌株であってもシンポジオ型とアネロ型の複数の分生子形成様式を有することが明示された.以上より,得られた菌株の中には,分類的に未記載のものが含まれている可能性が示唆された.2では,今後のアジア地域でのRaffaelea様菌株の病原性を判断するための端緒として,恒温室を購入し,同機器内での苗木の育成と予備的な接種実験をミズナラとアラカシの苗木を用いて行った.接種自体は成功したものの,苗木の恒温室内での馴化が不十分であったため,部分的な枯損が認められた.保育に関する問題点を修正し,次年度以降に再度,接種実験を実施する.解剖試験では,苗の木部の水の有無と菌糸分布の関係をCryo-SEMと蛍光染色法により検討して,菌糸の分布範囲のごく近傍でも道管や周囲仮道管が水で満たされている場合があることがわかった.3では,タイ,インドネシア,台湾,中国,ベトナム,5カ国に赴き,ブナ科樹木の生育する自生地での枯損被害の踏査と潜在的なブナ科樹木の枯損の探索をを敢行するとともに,訪問地各国の研究者から,ナラ類の類似被害およびRaffaelea属菌と養菌性キクイムシ類に関する情報を収集した.
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