琉球諸島では、大陸島と海洋島という異なる地史・環境に、熱帯要素と温帯要素の樹木が共存する複雑な亜熱帯林が成立している.先行研究により,琉球諸島の成木の外生菌根菌(以下菌根菌)群集は大陸島である西表島と海洋島である大東島の間で異なる傾向が示された.成木の菌根からは菌糸体が土壌中に伸びており,新たに伸長した根や更新実生への感染源となる.一方,土壌中には休眠状態の菌根菌の胞子が存在しており,菌根菌個体群の維持や攪乱後の実生の感染源として重要な役割を果たすことが知られている.そこで本研究では,西表島(大陸島)と大東島(海洋島)の埋土胞子の菌根菌群集を調べ,地史・環境が埋土胞子の菌根菌群集に与える影響を明らかにすることを目的とした.西表島と南大東島のリュウキュウマツの優占する人工林の2林分を調査地とし,各林分において5×5×10cmの土壌サンプルを50個採取した.サンプリングした土壌から根などの粗大有機物を取り除き,バイオアッセイに供した.バイオアッセイは,チューブに土壌を入れ,リュウキュウマツまたはアカマツの種子を植えて5~6カ月育苗した.各苗の乾重を計測し,根系を実体顕微鏡下で観察して菌根の形態類別を行った.各実生で見られたそれぞれの菌根形態タイプについて,rDNAのITS領域の塩基配列を用いて菌種の同定を行った.その結果,西表島と大東島ともに高頻度で検出されたのはSuillus granulatus であった.一方で,西表島ではRhizopogon sp.やCenococcum geophilum が検出されたのに対し,大東島では検出されなかった.これは大東島が海洋島であり,非風散布の菌根菌が入り込むことができていないことが影響していると考えられた.
|