研究課題
セルロースやキチンは未利用バイオマスの主成分であり、食料と競合しない次世代の炭素源として有効利用が望まれている。これらは、β-グリコシド結合を有する不溶性多糖であることを共通の特徴として有していることから、いかにβ-グリコシド加水分解酵素(β-グリカナーゼ)を固液界面で効率良く働かせるかが、未利用バイオマスを高効率に変換するための鍵であると言える。そこで本研究では、高速原子間力顕微鏡を用いて固液界面におけるβ-グリカナーゼの挙動を定性的・定量的に評価し、未利用バイオマスの糖化という次世代の生化学的プロセスを高効率化するためのストラテジーを構築する。平成25年度は、平成24年度に引き続きセルラーゼの観察を行ったが、その際に現在セルロース系バイオマスの分解に一般的に用いられている糸状菌由来の酵素ではなく、細菌由来の酵素に関して実験を行った。その結果、糸状菌由来のセルラーゼと同様、セルロース分解性バクテリアが作る糖質加水分解酵素ファミリー6に属するセロビオヒドロラーゼが、結晶性セルロース表面を動く様子が高速原子間力顕微鏡によって観察できた。以上の結果は、日本農芸化学会2014年度大会で成果報告した。また、キチン分解性のバクテリアが生産するキチナーゼには、分解方向が異なる酵素の存在が示唆されているが、これまでキチナーゼがどのようにキチンを分解するのかを一分子観察した例はない。そこで、セルラーゼに対して行った同様の実験を、キチナーゼにも適用し、キチナーゼの違いがキチンの分解に与える影響を調べた。その結果、糖質加水分解酵素ファミリー18に属する二種類のキチナーゼ(ChiAとChiB)が逆方向に進む様子が観察された。さらに両酵素の移動速度やプロセッシビティを測定し、それらの成果を投稿した。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は、主に細菌由来セルラーゼ遺伝子を取りそろえ、それら酵素の調製を主として行う予定であったが、年度内に活性測定および一分子観察を行うことができた。またキチナーゼの観察にも成功しており、順調に進んでいると言える。
平成25年度ではこのようなプロセッシブなグリカナーゼが結晶性多糖を分解する様子を観察するための新規アッセイ法を確立することに成功した。その結果としてこれまでの生化学的手法では不可能と考えられてきたプロセッシビティの評価方法を確立し、由来の異なるセルラーゼやキチナーゼの新たな性質を調べることに成功した。平成26年度終了時(本プロジェクト終了時)までに、結晶性多糖を分解できるセルラーゼおよびキチナーゼがどのようなメカニズムで反応を行うのかを明らかにし、それらの機能解析をもとにこれら構造多糖を完全分解するためのストラテジーを提案していく。
消耗品購入のタイミングの違いで少額ながら次年度に使用する金額が発生してしまったが、研究は順調に進んでおり実験には影響はない。次年度に本実験で使用する消耗品を購入する予定である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 備考 (3件)
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