研究概要 |
木材の誘目性が視覚ストレスに及ぼす影響を定量的に評価するために,本年度は以下のような実験と解析を行った. a)視覚刺激の調製:大学の標準的な実験室の白い壁面に100mm幅のスギ板目材で組まれた960mm角パネル3枚を横並びに貼った.その際,「パネルの配置(貼る高さ)」および「パネルの向き(繊維方向)」を変えて3種類のデザインを設定した.さらに,板目面に等間隔の溝(スリット)があるものとないものも設定し,計6種類の実大木質内装を視覚刺激として調製した. b)被験者実験:上記の木質内装室に男女学生19名を1名ずつ誘導し,2500mmの距離から壁面を観察させた.このときの被験者の自律神経系反応(脈拍数,血圧,心拍変動),視線の動き(認知反応)を経時的に測定した.約9分間の滞在時間の最後に,壁面の見た目の快適感などについてアンケートを行った(主観評価).さらに,木質内装室滞在前後に感情プロフィール検査(POMS検査),および,ストレスレベル測定(唾液アミラーゼ活性)も行った. スリットの無いパネルを目の高さに横貼りした壁面は他のデザインよりも快適感が強く,逆にスリットのあるパネルを腰壁様に横貼りした壁面は,不快ではないが快適感が最も弱かった.これら2つの意匠を観察する際,被験者の拡張期血圧には有意な変化が現れなかったが,これら以外の内装室では観察初期に血圧が有意に低下する傾向が見出された.また,目の高さに横貼りされた壁面および縦貼りされた壁面を観察する際,被験者の視線の垂直移動は横貼りの方が縦貼りよりも小刻みになった. 木材の量は一定であっても,その配置や向きによって,心理反応はもちろん,自律神経系反応や認知反応が影響されることを今回の結果は示している.木質内装のデザインがヒトに及ぼす影響はこれまで経験的に言及されるに過ぎず,実大実験によるこのような実証データは非常に重要である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
木質内装を観察することで中枢神経系に生じる変化を眼球停留関連電位(EFRP)計測によって抽出することを当初予定していたが,当該年度に実施した被験者実験までに安定的に脳波を検出するに至らなかった.この点以外は概ね予定通りに実験計画は進行しており,主観評価のためのツールであるウェブVASシステムが構築されるなど,実験実施環境が予想以上に整う側面もあった.
|
今後の研究の推進方策 |
実験室内に施工された実大内装空間に被験者を誘導し,認知反応測定,中枢神経系反応測定(EFRP測定),自律神経系反応測定,心理応答測定を行い,実大木質内装空間に曝露された被験者のストレスレベルを多面的に測定する.中でも当該年度中に実測に至らなかったEFRP測定はこれまで木材分野で試みられたことのない中枢神経系反応の測定手法であり,次年度は特にここに傾注する.
|