研究課題/領域番号 |
24380093
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
仲村 匡司 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10227936)
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研究分担者 |
木村 彰孝 長崎大学, 教育学部, 助教 (50508348)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 木質内装 / 居住性・感性 / Wood/Human Relations / 視覚ストレス / テクノ・アダプタビリティ / 感性情報処理 |
研究概要 |
木材の誘目性が視覚ストレスに及ぼす影響を定量的に評価するために,本年度は木材による単純な壁面デザインを施した実大木質内装の観察実験と結果の解析を行った. 2.4m×2.4mの白色の壁面に,長さ2.5m,幅10cmの7本のスギ平角材を,材幅と隙間の比を1:0,1:1,1:2と変えて,縦向きあるいは横向きに貼った(6種類).壁面に占める木材の割合はいずれも30%である.この木質内装室に30名の男女学生を1名ずつ誘導し,2850mmの距離から壁面を観察させた.このときの被験者の自律神経活動(脈拍数,血圧,心拍変動),中枢神経系反応(脳波)を経時的に測定し,また,壁面の見た目の快適感や主観的木材量などに関する官能評価を実施した.さらに,木内装室滞在前後に感情プロフィール検査(POMS検査)およびストレスレベル(唾液アミラーゼ活性)の測定も行った. 脳波の解析に用いたのは眼球停留関連電位(EFRP)を指標に用いる新規な手法で,壁面デザインに対する被験者の注意や興味を客観的に評価できることが期待される.今回は被験者の後頭野からEFRPに特有のラムダ反応を各刺激から検出することができ,しかも,横貼りよりも縦貼りの方が反応の振幅が大きいことなどを確認できた.自律神経活動においても,壁面に使用されている木材量が一定であるにもかかわらず,材の向きおよび配置の違いによって反応に差異が認められた.主観的木材率は材と材との間に隙間が開いたときに過剰評価される傾向が見出され,壁面に占める正味の木材量を見積もる被験者と,壁面における木材の広がりを評価する被験者の存在が示唆された. 木材の量は一定であるにもかかわらず,デザインが主観評価はもちろん,自律神経系反応および中枢神経系反応に影響を及ぼしうることを,昨年度に引き続き実大内装実験によって示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,木質内装を観察することで被験者の中枢神経系反応(脳波)に生じる変化を,眼球停留関連電位(EFRP)計測によって抽出することに傾注し,評価ツールとしての有効性を確認できた.EFRP以外の測定項目は昨年度と同様であり,また,主観評価のためのツールであるウェブVASシステムも安定的に運用でき,全体として円滑に実験を行えた.この種の実験としては多めの被験者数(30名)を確保できたため,例えば主観評価の傾向に応じて被験者を分けて生理応答データを集計することが可能となった.これは官能検査法に準じた主観評価(心理量)と生理応答評価指標(生理量)を有機的に結びつけて,木材の外観的特徴(物理量)が人に及ぼす影響をより精緻に解析することにつながるものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究により,実大木質内装が視覚情報処理系を刺激することによって被験者に生じる心身の状態変化を抽出するための道具立てが揃った.次年度も引き続き,新たな内装デザインを設定して,実大木質内装空間に曝露された被験者の状態を多面的に測定する.また,実大内装実験では供試できる視覚刺激の数が著しく制限されるため,コンピュータ・グラフィックスで表現された内装画像を刺激に用いることも検討する.データの解析においては,主観評価の傾向などを見ながら何らかの属性に応じて被験者を分類して,個人差を考慮した分析を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じたのは,実大実験を行うための実験室のレンタル費用,木質内装の資材購入費と施工費を当初見込みよりも圧縮できたことによる. 次年度においてはこの剰余金を新たな内装デザインのための資材購入費と施工費,被験者への謝金,また,研究成果の論文投稿経費に振り向ける予定である.
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