研究課題/領域番号 |
24380105
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大竹 二雄 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20160525)
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研究分担者 |
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70463908)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / サケ / アユ / 耳石 / 安定同位体比 / 微量元素組成 / 資源 |
研究実績の概要 |
(1)東日本大震災がサケの初期生活史、および母川回帰に及ぼした影響:2011~2012年に計23孵化場(北海道10ヵ所、岩手県8ヵ所、北陸地方と東北地方の日本海側5ヵ所)で得たサケ放流稚魚について耳石の酸素・炭素安定同位体比(δ18O、δ13C)分析した。δ18Oとδ13Cはいずれも同一の孵化場の稚魚はそれぞれほぼ同様の値を示した。各地域内の孵化場間で比較すると、一部の孵化場間で値の重なりがみられるもののδ18Oとδ13Cを組み合わせることでほぼ全ての孵化場を判別することができた。さらに北海道・西別川、岩手県・安家川、福井県・手取川の孵化場産サケ稚魚の耳石について微量元素組成を分析したところ、Li/Ca、Mg/Ca、Ba/Caに孵化場間の違いがみられ、さらにSr/Ca、 Zn/Caに成長に伴う変化がみられた。これらの結果からδ18O・δ13Cと微量元素組成を組み合わせることで高い精度の産地判別が可能であることが予想された。また、それらの生活史断面での分析を行うことで回遊履歴の推定も可能であるものと考えられた。現在、回帰サケについてδ18O・δ13Cと微量元素組成による母川回帰の状況に関する解析をを鋭意進めている。 (2)東日本大震災がアユ資源に及ぼした影響:大船渡市盛川で2012年秋季の仔アユの流下時期と2013年6月に採集された遡上アユ(2012年孵化群)の孵化日、推定遡上日、推定遡上日齢、推定遡上体長、産卵時期を調べ、2010孵化群(津波被災年級群)、2011年孵化群の調査結果と比較した。その結果、流下時期と遡上魚の孵化日組成が若干早まるとともに推定遡上日齢が増加して震災前に近くなったものの、推定遡上体長の顕著な低下がみられた。推定遡上日に変動はなかった。仔アユの流下時期(産卵時期)や遡上日齢の変化に震災後再開された稚アユ放流の影響が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三陸地域のアユについて、東日本大震災により①早生まれ個体が津波の影響を受けて遡上群から消滅、遡上アユの主体が従来の早生まれ個体群から遅生まれ個体群に移行したこと、その結果②遡上アユの海洋生活期が全体として短期化し遡上体長が減少したことを明らかにした。また、その傾向は震災後2年間継続し、2013年遡上群では遡上魚の孵化日組成や産卵期が震災前と同様に回復したものの、遡上魚の体長の縮小は顕著であり、その要因の一つに稚アユ放流の影響があることを明らかにした。以上は、津波が沿岸性魚類の生態に与えた影響として世界で初めて明確に示された成果であり、高く評価されている。現在、本研究成果の論文公表に向けた準備を進めている。 一方、サケについては、耳石の安定同位体・微量元素組成により孵化場判別が可能であること、また回遊履歴の推定に有効であることを明らかにしたことなど重要な成果が得られた。しかし、回帰魚の分析に時間を要しているため、本研究の当初の目的の一つである回帰魚の母川回帰の状況に関する解析が十分に行うことができなかった。 以上より、現在までの達成度を「(2)おおむね順調に達成している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
サケについては、回帰魚の耳石分析を加速させ、母川回帰の状況に関する解析を早急に取りまとめる。また、耳石の安定同位体・微量元素組成から個体の回遊履歴の推定が可能であることが本研究で示唆されたことから、今後は耳石分析による回帰魚の回遊履歴推定に関する研究を開始する予定である。 アユについては、まず本研究で得られた成果の論文公表を行う。また、本研究により示唆された三陸域のアユの産卵・遡上生態への稚アユ放流の影響について、流下仔アユや遡上アユを対象に分子遺伝学的手法による天然魚vs放流魚の判別を行い、稚アユ放流がアユの生態に及ぼす影響について検討を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果をまとめた英語論文を現在準備中だが、年度内に投稿しても投稿から出版までに要する期間を考慮すると年度内の出版は難しい状況であるため未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、準備中の英語論文の英語校閲費、および出版費に充てる予定である。
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