研究概要 |
浅海域は,地球上の全生態系のなかで最高の生物生産速度を誇る.しかしながら,これまでその生産過程は湾などの「海域」を基本単位として評価されてきた.本研究では,物理・生物的性状が異なる複数生態系(藻場,砂浜など)の集合体である浅海域の生物生産への貢献度を,生態系ごとに区分して定量評価する.浅海域の生物生産の主要構成要素である魚類資源は,他の生物群(貝類,甲殻類等)に比べて高い移動能力を備え,複数生態系を移動しながら栄養フローを担う.本研究課題は「貢献度評価」の先駆的研究事例として世界をリードし,得られた定量的データにもとづいて我が国の沿岸環境・資源の新たな管理方策「複合生態系保全」を提案することを目的とする. 平成24年度には,藻場を中心とする沿岸生態系における魚類群集の主要な捕食者一被捕食者を特定するための魚類群集調査と胃内容物解析を実施した.瀬戸内海では,アマモ場繁茂する夏期において,メバル類が水産業上重要でかつ優占する魚類であった.その捕食者としては,メバル類,マアナゴなどが優占した.広域的比較のために,我が国の他地域(主に太平洋側,北海道一鹿児島県の計13箇所)において採集した標本を用いて,魚類群集,捕食者の空間比較を実施した.その結果,南日本(太平洋側では宮城県以南)においては捕食者となりうる魚食性魚類の個体密度,バイオマスが北日本に比べて小さいことが明らかとなった.得られた成果を,関連する学会において口頭発表するとともに,英文の学術雑誌に投稿した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では,瀬戸内海における捕食者一被捕食者の種間関係の解明を目標としていたが,これらの成果に加えて,さらに魚類群集全体の解析および全国13箇所(北海道一鹿児島県)の魚類群集との比較も実施し,学会での口頭発表,論文投稿に結びついたため.
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