この研究では、近世期には水害常襲地域として苦難の経験を重ねて近代以降に穀倉地帯へと変貌した日本3地区(牛島・亀田・新利根川)と韓国1地区(益山)を対象に、各地区における「土地に刻まれた歴史」が現状の農村社会構造にどのように反映しているのかを、経路依存性という観点に注目しつつ、比較研究することを課題として設定た。それぞれの地区に固有なリスク分散制度は社会構造を規定し、社会構造は「土地に刻まれた歴史」=インフラ整備の態様を規定する、他方でインフラ整備の態様は当該地区の生産力構造と社会構造、そして営農組織の形態を規定する。比較分析の枠組みとして、こうした相互規定的・経路依存的な関係性を想定した。韓国=旧植民地という視点からの比較も課題とした。 具体的な研究実績は、次の3点である。1)近世における牛島・亀田両地区における割地地慣行の実証を深めた。割地制度は、特殊な地域における例外的な制度ではなく、近世の日本の広く見出すことができることを確認したうえで、両地区における水害リスクへの対応方式を分析した。2)植民地期全羅北道益山地区におけるインフラ(治水・水利)整備の進捗度と地域の土地所有構造・村落社会構造および地域住民のインフラ整備事業に対応(抵抗と受容)を明らかにした。3)人口減少・高齢化という4地区をとりまく現局面での共通性に着目し、それに対する地域営農の対応の異同を明らかにした。とくに現状分析という観点から、牛島地区と新利根地区における営農組織の特徴を、地域社会構造の差異に着目しながら比較分析を行った。
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