研究概要 |
平成24年度は,(1)中国における展民専業合作社の契約栽培,(2)中国の穀物生産と食糧自給に関する研究成果を得た。概要は以下のとおりである。 (1)中国の農民専業合作社が国内外で注目を集めている理由は,それが「三農問題」の核心部分である都市・農村間の所得格差を是正し,農民の経済的地位の向上に資すると考えられているからである。そこで本研究では計量経済学の手法を用い,合作組織に参加する農家の動機や組織による農家選別の基準を明らかにしながら,事業の農家経済に及ぼす影響を明らかにした。実証は筆者が江蘇省南京市の農村で独自に収集したデータを用いて行った。合作社は小規模経営の入社を制限しているが,自己選択の結果として入社を躊躇している農家も少なくない。新旧合作社の相違を理解していない者や,人民公社に対して強い嫌悪感を抱いている農家ほど,事業への参加率は低く,そうした農家は概して経営規模が小さい。また,契約栽培が農業所得に及ぼす効果は,小規模層についてのみ検出され,大規模層では統計的に有意ではなかった。このことは,合作社に対する農民自身の無理解や,事業への参加を制限している入社資格が,小規模農家から所得向上の機会を奪っていることを示唆している。 (2)本研究で,やや特殊な生産関数を用いて,中国における穀物生産の技術的な特質を考慮しながら,食糧自給率の将来予測を行った。分析の結果,最近における農業の資本深化は,おもに農業関連企業や農民専業合作社が提供している機械サービスの普及によるものであることが判明した。また,シミュレーション分析の結果,現在,中国政府が掲げている食糧自給率95%の維持は,農業の交易条件が相当に好転しない限り,不可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は,江蘇省内の300の村民委員会を対象として,企業(竜頭企業)および農民専業合作社の農業参入に関する調査を実施する予定であったが,諸般の事情により,調査票の作成,プリテストの実施にとどまった。
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