研究概要 |
カンキツ果実果皮は生食・加工いずれにおいても非食用部位として処理・廃棄されるが,食物繊維やβ-クリプトキサンチンなどの機能性成分を多く含む有望な未利用資源でもある.本研究はカンキツ果実果皮部の有効活用法確立を目的とする.カンキツ果実果皮の構造は「油分を多く含むフラベド層(表層)」と「物性的に良好な繊維からなるアルベド層(薄皮層)」および「内層の可食部」からなる.平成24年度は,それら各層組織の力学的性質の違いを利用して層ごとに順次分離・回収する効率的な技術の確立,および得られた物質・成分の利用法を検討した.【材料および方法】市販の輸入オレンジを購入し,実験試料として用いた.オレンジ果実赤道部の果皮を切り出し,定法で前処理後,フラベド層,アルベド層の各層の微細構造をSEMで観察するとともに,クリープメータを用いて果皮各層の貫入硬度,圧縮強度,せん断強度,引張強度を測定,評価した.また上述の研究結果に基づいて,切削処理で果皮各層を分離・回収し,得られた切削物を乾燥,低温粉砕ののち粉末化した.【結果および考察】フラベド層は球状の細胞で構成されており,0.5~1mmの間隔で油分を含有する油胞が観察された.それら細胞の大きさは果皮表面ほど小さくより密に連なっていた.一方,アルベド層では繊維が網目状の構造体を形成し,果皮面に対して層状に重なった状態であることが確認された.同様に果皮各層の力学物性を測定した結果,圧縮強度およびせん断強度はアルベド層の方がフラベド層よりも大きかったものの,貫入硬度および引張強度はフラベド層の方が有意に大きかった.以上の結果は,おろし金状で果皮表面から切削すればフラベド層からアルベド層に達したところで切削に要する力が減少することを意味する.実際に果実を表面から切削したところ各層が良好に分離されることが示された.また得られた切削物は容易に粉末化可能であった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の実施によって分離・回収された果皮各層の切削物は,細胞構造を保った組織片である.平成25年度以降は,機能性成分等の長期保持を目的として細胞構造自体の利用を目指す.具体的には,切削物を乾燥,粉末化して粒度分布を適切に設定し,細胞構造が破壊されないよう調整する.得られた粉末に含まれる機能性成分や色素の粒度分布ごとの保持特性などを評価.解析し.細胞構造を維持した状態での利用法を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降も引き続きカンキツ果実サンプルを確保,処理して粉末を作製し,それらの性質を検討する.特に細胞構造の維持が細胞内成分の保持および溶出特性に及ぼす影響を調査,検討する.このため引き続き試薬,ガラス製実験器具等,実験用消耗品購入のために研究費を使用するとともに,実験補助のための人件費も支出する.なおドイツからの輸送事情によりツァイス製顕微鏡カメラ購入が遅れて基金分を繰り越したが,納入次第使用する.
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