研究課題/領域番号 |
24380139
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
荊木 康臣 山口大学, 農学部, 教授 (50242160)
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研究分担者 |
伊藤 真一 山口大学, 農学部, 教授 (30243629)
荒木 英樹 山口大学, 農学部, 准教授 (90346578)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | LED / 補光 |
研究実績の概要 |
本年度も、昨年度に引き続き、メカニズムの解明に向けた知見の蓄積を試みた。特に、波長特異性、すなわち紫色LED光のうち、影響を与えうる波長域に関する情報を取得するために、1)異なる波長をピークに持つ紫色LED、および2)紫外線領域(400nm以下)をカットする光学フィルターを用いて、紫色光照射時の活性酸素の発生およびPSII量子収率の低下に影響を与える波長域に関する情報を収集した。その結果、ピーク波長の僅かな違いや400nm以下の波長光をカットすることが、PSII量子収率の低下や一重項酸素発生程度に影響を与えることを明らかにした。 さらに、照射条件の最適化に向けて、異なる補光条件下で、照射葉における病害抵抗性に関わる遺伝子発現の調査を試みたが、遺伝子発現量の個体差、個体内差が大きく、照射条件による明確な違いを検出することはできなかった。 また、紫色光照射に対する感受性を調べる実験系に関しては、クロロフィル蛍光画像解析装置を利用して量子収率の経時変化を比較できる新しい実験系を構築し、数種の植物苗に対し、白色光と紫色光を照射した際のPSII量子収率の差の変化パターンを解析した。その結果、植物により、紫色光照射時のPSII量子収率の低下パターンが異なることを明らかにした。この低下パターンの違いは、植物種の選定や照射条件の設定等で有用な知見となりうる。 さらに、昨年度試作した補光装置を利用して、環境制御下での苗生産における病害防除効果と成育促進効果を調査したところ、キュウリ苗において、育苗時の紫色光補光が、生育を促進すると同時にうどんこ病の発生抑制に効果的である可能性を示唆する結果を得た。また、苗生産企業の協力を得て、補光装置を実際の苗生産の場でも試用し、その問題点や改良点の抽出を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに、紫色光の適切な補光により、苗生産において、病害の発生を抑え、生育を促進できる可能性を示唆するデータは得ているものの、1)メカニズムの解明、2)照射条件の最適化に関しては、予定通りに進んでいるとは言えない。 まず、紫色光照射により植物の病害抵抗性が向上するメカニズムに関しては、知見が蓄積されてきてはいるものの、まだ、不明な点が多い。特に、紫色光照射による活性酸素(一重項酸素)発生に関しては、有望な仮説の絞り込みができていない。 また、照射条件の最適化に関しては、病気を抑えられる状態を適切かつ定量的に評価することが難しく、現段階では、特定の病害が起きやすい条件下で、様々な照射条件を試行錯誤的に試験して、結果、病害がどの程度発生するかで評価しており、対照区における病害の発生程度が変化するなど、安定性に欠け、再現性に乏しいのが現状である。今年度、病害抵抗性にかかわる遺伝子をマーカーとして調査する手法を試みたが、発現量のバラつきが大きく、照射条件による差異は検出できなかった。照射条件の最適化には、評価指標の確立が不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1)メカニズムの解明、2)照射条件の最適化法の検討、3)応用に向けた課題抽出を、中心に行う。 まず、メカニズムの解明に関しては、一重項酸素の発生条件(照射条件)を、PSII量子収率の低下と関連付けながら調査する。また、病害抵抗性に関わる遺伝子発現と一重項酸素の発生との関連も調査する。さらに、2つの光化学系の励起状態と調べるために77Kでの蛍光計測なども試みる。 そして、メカニズムに関して得られた知見を利用して、照射条件の最適化に向けた評価指標の導出を試みる。さらに、感受性試験で得られた知見も活かして、実用化を見据えた照射条件の最適化手法に関する提案を試みる。 なお、今までの研究の過程で、光照射(補光)条件自体の再現性の向上も実用化には不可欠であることが判明してきている。すなわち、植物の生育とともに、光源と植物の位置関係が変化し、結果、照射強度等の条件が変化することも、補光の効果の安定性を低下させている要因となりうる。よって、補光条件の最適化に向けては、植物側の評価指標とともに光照射条件の明確化も必須となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画に対して、順調に進行していない部分として、照射条件の最適化があげられる。最適化を行っていくうえでの評価指標が確立できておらす、その結果、最適化を行うための様々な照射条件下での栽培実験が実施できていない。よって、その分に充ていた予算を繰り越す必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では、照射条件の最適化に必要な評価指標を確立するための実験を多く行う予定で、繰り越し分は、遺伝子解析用、活性酸素測定用の試薬類等の消耗品の購入と最適化に向けた栽培実験の実施に充てる予定である。
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