研究課題/領域番号 |
24380140
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
渋谷 俊夫 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50316014)
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研究分担者 |
東條 元昭 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (90254440)
平井 規央 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (70305655)
遠藤 良輔 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (10409146)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光合成特性 / 生物的ストレス抵抗性 / 高付加価値苗 / 光環境応答 |
研究概要 |
照射光のR/FRが植物葉の光合成特性および水分ストレス応答特性に及ぼす影響を明らかにするため,異なるR/FRの照射光下で順化したキュウリ葉のガス交換特性を,気孔特性と水利用効率(WUE)に注目して調べた.キュウリを高R/FRまたは低R/FRの光照射下で育成し,第1本葉の純光合成速度(A),蒸散速度(T)および気孔コンダクタンス(gs)を測定した.高R/FR順化葉のA,gsおよびTは,低R/FR順化葉よりも大きかった.高R/FR順化葉においてgsが大きかったのは,高い気孔密度によるものと考えられ,光合成能力向上の一因と推察された.同じCi下におけるAは高R/FR順化葉の方が大きかったことから,高R/FR順化葉の光合成能力の向上には,非気孔要因も関与していると考えられた.高R/FR順化葉では,単位面積あたりの乾物重が大きいことから,高R/FRの光照射によって葉が厚くなり,葉面積あたりの葉緑体量が増加したことが考えられる.WUEは,高R/FR順化葉において低R/FR順化葉よりも低かったことから,高R/FRで育成した植物は水分損失を過剰に起こしやすい可能性がある.次に,光質および湿度環境が植物の病害抵抗性に影響するメカニズムを検討した.キュウリを低湿度または高湿度で育成した後,うどんこ病菌の接種を行った.うどんこ病菌の発芽率および吸器形成を調べたところ,発芽率には影響が見られなかった一方,吸器形成は低湿度順化葉において抑制された.吸器形成はその後の病斑形成とよく似た傾向を示したことから,低湿度順化葉におけるうどんこ病抵抗性の向上は,表皮における吸器の侵入抑制によると考えられる.吸器の侵入抑制は高R/FR順化葉でも見られたことから,光質および湿度環境が病害抵抗性に及ぼす影響には共通したメカニズムが存在する可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物理環境処理による光合成能力向上メカニズムに関しては,当初予定ではクロロフィル蛍光パラメータを中心に解析する予定であったが,A-Ci曲線にもとづいて気孔・非気孔要因の解析を行うことで,より適切にメカニズムを解析することができた.気孔・非気孔要因の解析については植物生理学分野の学術雑誌に投稿中である.物理ストレス耐性については,水利用効率を中心に解析を行い,新しい知見が得られている.光環境と湿度環境双方の影響を比較するための実験も予備的に行っており,次年度に向けての準備は十分に整っている.病害虫抵抗性のメカニズムについては,キュウリうどんこ病を対象に実験を行い,その成果の一部は植物病理学の学術雑誌に掲載されている.メカニズムの解明に解剖学的手法を新しく取り入れ,妥当な結果が得られていることから,この方法を用いることで次年度の研究は飛躍的に進むことが予想できる.害虫抵抗性については進行が遅れているが,ハダニの行動を観察することで害虫抵抗性を評価できることを予備的に確認している.以上のことから,現在までの達成度は,おおむね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
害虫抵抗性の評価については,コナジラミやアザミウマを用いた予備試験を行ってきたが,材料の扱いやすさや評価のしやすさからハダニを対象とすることが効率的な試験を行う上で妥当であることが判明した.現在,天野洋教授(京都大学)のアドバイスを受けながらハダニを用いた予備試験を行っており,物理環境処理による植物のハダニ抵抗性向上についての新しい知見が得られつつある.さらに詳細に調査することで学術的にも実用的にも重要な知見が得られることが予想されることから,次年度はハダニを中心とした実験に完全移行する.また,次年度は自己防御能力を高めた苗を用いての実証試験を行う予定であるが,苗生産現場との連携を図ることで,問題なく本研究課題を遂行できると考える.
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次年度の研究費の使用計画 |
害虫抵抗性の試験の遅れによって,それに使用する予定であった消耗品購入費,人件費分に余剰が生じた.また,それに関連する学会発表,論文投稿ができなかったことによる余剰が生じた. 平成25年度に生じた余剰分については,害虫抵抗性の試験を集中して行い,その成果について学会発表,論文投稿を行うことですべて使用する予定である.
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