研究課題
本研究は、家畜の卵胞発育を制御する視床下部神経機構において、神経ペプチドのひとつであるニューロキニンBが黄体形成ホルモン分泌頻度を亢進し、卵胞発育を刺激するメカニズムについてヤギを用いて解明することを目的とする。これにより、家畜の繁殖障害の予防や新規な治療法にニューロキニンB製剤を応用するための基礎データを集積する。今年度は、弓状核の「KNDyニューロン」特異的にチャネルロドプシン2(ChR2)またはアーキロドプシン(ArchT)を発現する遺伝子改変ヤギの作出に向けた基盤的知見を集積するため、ヤギニューロキニンB遺伝子(TAC3)プロモーター領域およびTAC3転写調節因子を同定することを目的として、ヤギTAC3のゲノム構造を明らかにした。ゲノムウォーキング法によりヤギTAC3上流域を解析し、推定翻訳開始点の約3.4 kb上流までの塩基配列を取得した。この領域には、エストロジェン受容体α、Sp-1、AP-1など繁殖機能に関与する転写因子の結合部位が多数存在していた。さらに、マウス視床下部由来不死化細胞株、ヒト神経芽細胞腫由来細胞株、および当研究室で樹立したヤギKNDyニューロン不死化細胞株を用いたルシフェラーゼアッセイにより、ヤギTAC3の-197~+166の領域にコアプロモーターが存在することを確認した。今後、ヤギTAC3プロモーター領域の情報をKNDyニューロン特異的な遺伝子改変ヤギの作出に活用する。また、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギの作出にアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子改変技術を適用するため、ヤギに適したAAV血清型の検討を開始した。さらに、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギの作出後に用いる実験系確立のため、視床下部神経活動を記録しながらレーザー光照射を行う手法の開発を引き続き行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画では、ヤギTAC3のゲノム構造を明らかにし、TAC3プロモーター領域とその転写調節因子の探索を行うことを予定していた。その結果、ヤギTAC3遺伝子のコアプロモーター領域の同定は完了した。一方、TAC3転写調節因子の同定には至っていないが、その候補因子に関する情報の収集は実施できた。当初の目的はおおむね達成し、本研究の成果を関連学術誌に発表した。また、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギの作出に、近年めざましい開発が進んでいるアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子改変技術をCre-loxPシステムと組み合わせて適用することを発案し、その検討を開始した。次年度にこれらの技術を適用してヤギモデルを作出する準備段階として、十分な予備データを得ることができた。さらに、視床下部神経活動記録法およびレーザー光照射手法の確立はやや遅れているが、次年度には完了をめざす予定である。
本研究では、ヤギTAC3プロモーター領域下流にChR2またはハロロドプシン(HR)遺伝子を安定的に発現する細胞系を樹立した後に、体細胞クローン技術を利用して弓状核のKNDyニューロン特異的にChR2およびHRを発現する遺伝子改変ヤギを作出することを当初の目的としていた。近年のオプトジェネティクス技術の発展はめざましく、より感度の高い光感受性イオンチャネルが利用できるようになってきたため、HRの代替としてArchTを用いることとした。また、相同組換えによる遺伝子導入には新規遺伝子改変技術(TALEN)法を用いることを予定していたが、遺伝子改変ヤギの作出には相当の時間を要することが想定される。そこで、Cre-loxPシステムとアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子改変技術を併用し、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギの作出を並行して実施することとした。そのため、ヤギTAC3プロモーター領域の下流にCreリコンビナーゼ遺伝子を組み込んだAAVベクター、および、ChR2およびArchT遺伝子をloxP配列ではさんだAAVベクターを視床下部弓状核に直接投与することにより、KNDyニューロン特異的にChR2およびArchTを発現するヤギを作出する手法を今後検討していく予定である。
平成25年度は、ヤギTAC3プロモーター領域の同定が予定以上に順調に進んだこと、また、視床下部神経活動記録法およびレーザー光照射手法の検討がやや遅れたことから、分子生物学試薬類の購入費や電気工作材料費が予想以上に少なかったため、次年度使用額として約50万円を計上することとなった。平成26年度に請求予定の次年度使用額とあわせた学術研究助成基金助成金210万円は、TAC3遺伝子転写調節メカニズムの解析およびKNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギ作出に向けたアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターによる遺伝子改変技術検討のための分子生物学・細胞生物学試薬類、プラスチック消耗品類などの遺伝子実験用資材、および、視床下部神経活動記録法およびレーザー光照射手法確立のための機材と資材調達のために使用し、本研究計画を円滑に推進するために活用する。
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日本獣医師会雑誌
巻: 67 ページ: 119-124
Journal of Reproduction and Development
巻: 59 ページ: 463-469
10.1262/jrd.2013-037
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