研究課題
本研究は、家畜の卵胞発育を制御する視床下部神経機構において、神経ペプチドのひとつであるニューロキニンBが黄体形成ホルモン分泌頻度を亢進し、卵胞発育を刺激するメカニズムについてヤギを用いて解明することを目的とする。視床下部弓状核の「KNDyニューロン」特異的に光感受性イオンチャネルを発現する遺伝子改変ヤギを作出するため、ヤギニューロキニンB遺伝子(TAC3)プロモーター領域およびTAC3転写調節因子の探索を実施した。当研究室で樹立したヤギKNDyニューロン不死化細胞株を用いたルシフェラーゼアッセイにより、ヤギTAC3の-197~+166の領域にコアプロモーターが存在することを確認した。また、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子改変技術を適用するため、ヤギに適したAAV血清型を検討した。4つの血清型のAAV(AAV-1、2、5、DJ)をヤギ視床下部に注入し、赤色蛍光タンパク質レポーター遺伝子の発現強度からAAV-1およびAAV-DJによる遺伝子導入効率が高いことを特定した。さらに、ヤギKNDyニューロン不死化細胞株にAAVを感染させ、AAV-2、AAV-5およびAAV-DJで導入効率が高いことを確認した。以上より、ヤギKNDyニューロンへの遺伝子導入にはAAV-DJが最も適していることが確認できた。また、ゲノム編集ツールであるTALENを用いて、キスペプチン遺伝子(KISS1)にCreリコンビナーゼを組み込んだKISS1-Creノックインヤギの作出をめざし、ヤギKISS1の終止コドン近傍を切断するTALENの有用性を検討した。その結果、設計したTALENによりヤギKISS1遺伝子座に変異が導入できることを確認した。さらに、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギの作出後に用いる実験系確立のため、視床下部神経活動を記録しながらレーザー光照射を行う手法の開発を前年度に引き続き行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画では、ヤギTAC3のゲノム構造情報を利用して、ヤギTAC3プロモーター領域およびTAC3転写調節因子の探索を行うことを予定していた。その結果、ヤギTAC3遺伝子のコアプロモーター領域の同定は完了した。TAC3転写調節因子の同定には至っていないが、その候補因子に関する情報の収集はできた。また、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギの作出のために、アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子改変技術をCre-loxPシステムと組み合わせて適用することを発案し、ヤギKNDyニューロンに高効率で遺伝子導入できる最適なAAV血清型を特定した。これにより、AAVベクターを用いた遺伝子改変技術をヤギに適用して、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギモデルの作出が可能であることが実証できた。さらに、ゲノム編集ツールのひとつであるTALENを用いてヤギKISS1遺伝子座に変異を導入できることが確認でき、KISS1-Creノックインヤギの作出のために重要な知見を得ることができた。視床下部神経活動記録法と組み合わせたレーザー光照射手法の確立はやや遅れているが、レーザー光照射のための光ファイバーを組み込んだ電極の設計は既に完了しており、次年度にはヤギへの電極留置と神経活動の記録をめざす予定である。
本研究では、ヤギTAC3プロモーター領域下流にチャネルロドプシン2(ChR2)またはハロロドプシン(HR)遺伝子を安定的に発現する細胞系を樹立した後に、体細胞クローン技術を利用して弓状核のKNDyニューロン特異的にChR2およびHRを発現する遺伝子改変ヤギを作出することを当初の目的としていた。近年のオプトジェネティクス技術の発展はめざましく、より感度の高い光感受性イオンチャネルが利用できるようになってきたため、HRの代替としてアーキロドプシン(ArchT)を用いることとした。また、相同組換えによる遺伝子導入にはゲノム編集ツールのひとつであるTALENを用いることを予定していた。TALENによりヤギ体細胞(繊維芽細胞)の目的とする遺伝子座に変異が導入できることは確認したが、遺伝子改変ヤギの作出には相当の時間を要することが想定される。そこで、Cre-loxPシステムとアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子改変技術を併用し、KNDyニューロン特異的に光感受性イオンチャネルを発現するヤギの作出を並行して実施することとした。そのため、ヤギTAC3プロモーター領域の下流にCreリコンビナーゼ遺伝子を組み込んだAAVベクターと、ChR2およびArchT遺伝子がloxP配列にはさまれて逆向きに組み込まれたAAVベクターを視床下部弓状核に直接感染させることにより、弓状核のKNDyニューロン特異的にChR2およびArchTを発現するヤギの作出を試みることとした。ヤギ視床下部において高効率に遺伝子導入できるAAVベクターの血清型の同定は完了しており、今後は遺伝子改変ヤギ作出に向けて研究を進展させる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件)
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