研究課題
基盤研究(B)
ゲノムへの偽遺伝子挿入パターンは動物種毎に異なっている。本課題では、脳の動物種間多様性成立機構を解き明かすため、偽遺伝子挿入による非タンパク質コードRNA(ncRNA)獲得と機能化が近傍遺伝子の発現スイッチを多様化しうる、という独自の発見の普遍性を検証していく。ncRNAの活性には二本鎖ゲノムからの転写方向が非常に重要である。本年度は、ncRNA発現を指標とした多様なシスエレメント情報の網羅化、に大きな進展があった。当該課題が文科省新学術領域「ゲノム支援」の支援課題にも選ばれたため、アカゲザル・チンパンジー・マウス・ラットの微量RNAサンプルからイルミナ社HiSeq2000を用いたdirectional RNA_Seq解析を強力に進めた。例えば、マウスとチンパンジー大脳・小脳では、いずれもゲノムの約1%程度しか両鎖からの転写が起こっておらず、二本鎖RNAがシスに形成される確率は低いと考えられた。一方で、タンパク質コード遺伝子の転写開始点近傍では、アンチセンス転写とセンス転写を明確に分ける「スイッチ点」が数千の座位で認められた。head-to-head型プロモーターの9割以上はCpGアイランドを含んでおり、CCGリピートとCGGリピートがそれぞれプロモーター上流と下流に有意に高く存在していた。組織特異的プロモーターncRNA(pancRNA)を持つタンパク質コード遺伝子は、pancRNA発現増大にしたがい協調的に発現を増大させており、一方ハウスキーピング遺伝子には概してpancRNAが欠落していた。このことに一致して、種特異的pancRNAノックダウンにより、直下の組織特異特異的遺伝子発現減少/表現型改変が起こりうることも分かってきたことから、pancRNAを介した共通原理の下で、動物種毎に異なる遺伝子スイッチ修飾が偽遺伝子挿入により生み出されていることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本課題は、[1]DNA脱メチル化における共通原理の推定、[2]RNA発現を指標とした多様なシスエレメント情報の網羅化、[3]遺伝子操作技術を活用した脳の多様化の実現、の3本柱で成り立っており、このうち、項目[2]が大きく進展したことにより、原理の一般化と動物有用形質賦与への応用への律速段階を乗り越えることが出来た。
[1]DNA脱メチル化における共通原理の推定、[2].,発現を指標とした多様なシスエレメント情報の網羅化、[3]遺伝子操作技術を活用した脳の多様化の実現、のうち、今年度に項目[2]で得られた情報をもとに、項目[1][3]の研究を効率よく推進する。
特に、[2]RNA発現を指標とした多様なシスエレメント情報の網羅化、については次年度も大きく発展が期待でき、またデータ量も格段に増えたため、新たにワークステーションを整備する。
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Proc Natl Acad Sci USA
巻: 109 ページ: E1294-E1301
10.1073/pnas.1114245109