研究概要 |
本研究の目的は,胎盤における免疫回避機構、特に母子境界領域におけるサイトカインの動態と役割を明らかにすることである。そのため,自然流産および実験流産モデルにおいて,生殖能力,妊娠中の子宮NK細胞/前駆細胞を含む免疫担当細胞の形態・動態,子宮内サイトカインの変化,MHC発現動態,CD46とCD55発現の有無を調べた。これと平行して,着床誘導因子の同定を遺伝子および蛋白質の両レベルで実施した。 注目すべきは,MHCクラス1発現の異なる雄雌交配による自然流産モデルにおいて,子宮内サイトカインの大きな変化が認められたことである。本モデルの流産部位(流産率約35%)では,非流産部位と比較して,Th1/Th2比が有意に高かった。各着床部位でのTh1/Th2比におけるTh1シフトが流産の原因であることがよく知られているが,さらに,IGFsも有意に高く,一方,TGF-bは有意に低かった,IGFsもTGF-bも脱落膜細胞から分泌されるが,IGFsは胎盤形成初期に,特に着床に重要とされるが,過剰な発現は着床阻害を誘導する。一方,TGF-bは脱落膜化誘導に必須の因子である。 これらは互いに逆の働きをし,IGFsはTGF-b分泌を抑制することから,本モデルでは有意に高いIGFsがTGF-b分泌を抑制した可能性がある。 PIGFは有意に低かったが,VEGFは顕著な変化を見せなかった。流産部位では,PIGFの主要産生細胞である栄養膜が既に機能傷害を起こしていることによるが,VEGFは栄養膜だけでなく,脱落膜細胞および血管内皮が分泌することによるものと示唆された。これは,PDGFが流産部位で有意に高かったことからも支持される。すなわち,本モデルにおいて,Th1シフトした着床部位は補体やアデプシンの沈着により,栄養膜機能傷害,さらには脱落膜内血管において血栓が形成され,局所での高血圧状態を招き,胎盤形成不全を起こしたものと思われた。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度購入予定した器機が共通器機で準備され,その必要性がなくなり,新規に遺伝子解析の器機を購入することとしたが,モデルチェンジのため,次年度に購入することにした。また,次年度の遺伝子解析のための試薬を購入するために必要である。
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