これまでに我々は、卵巣内に発現するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が黄体の退行因子として働くこと、偽妊娠黄体において、GnRHは黄体退行期に増加してプロジェステロン分泌能を低下させる作用を持つが、PRL受容体発現低下作用についてはPRLによって抑制されることを明らかにした。本年度は、プロラクチン受容体のアイソフォーム別に阻害を行って同様の変化がみられるか検討した。プロラクチン受容体には選択的スプライシングにより合成されるロングフォーム(PRLR-LF)とショートフォーム群が存在するが、細胞の増殖や分化を促進する作用は主にPRLR-LFを介したシグナル伝達経路であると考えられている。そこで、PRLR-LFの選択的スプライシングを特異的に阻害する薬剤であるAntimaia(研究者ら特許申請中)を用い、PRLR-LFの発現抑制が性周期に及ぼす影響について検討した。正常な性周期をもつ成熟メスC57BL/6マウスを実験動物として用いた。ALZETミニポンプにてAntimaiaを皮下に留置し、その後の性周期の変化について膣スメア法を用いて確認した。また、卵巣におけるPRLR-LFの発現量についてリアルタイムRT-PCR法にて測定した。その結果、投与2日目のPRLR-LF mRNA発現は用量依存的に抑制された。とくに最も高い投与量のマウスではPRLR-LF mRNAの発現は限界以下で認められなかった。これらのマウスの性周期は、用量依存的に発情休止期の延長がみられた。投薬後1週間の卵巣をヘマトキシリン・エオジンで観察したところ、閉鎖卵胞が多く見られ、卵胞の発育までは正常に行われたことが示唆された。以上より、PRLR-LFは卵胞発育後、エストロジェンの産生の増加から黄体形成にかけて以降において必須のシグナル伝達経路であることが示された。
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