研究課題
伴侶動物臨床でよく遭遇する肥満細胞腫の分子標的療法有効率は20%程度に留まっており、未だにその制御は難しい。腫瘍は、拡大の過程で低酸素・低栄養の劣悪な微小環境にさらされる。本研究の目的は、肥満細胞腫が酸素および栄養飢餓でも生き残る理由を、ストレス応答や細胞内代謝から分子生物学的に解析することである。正常細胞では、微小環境の悪化や未熟なタンパク質蓄積により細胞死が誘導される。しかし、がん細胞は劣悪な環境でも細胞死から免れ、生存・増殖する。本研究では、低酸素・低栄養の微小環境における肥満細胞腫細胞の生き残りに重要な役割を果たす機構として、解糖系、オートファジー、小胞体ストレス応答に着目して解析を行っている。まずマウスの骨髄から誘導した正常な肥満細胞を低酸素環境で培養すると、血管新生誘導因子の産生が著しく亢進した。また培養中に酸素濃度を変化させると、脱顆粒が誘導された。また、IgE抗体で感作すると、オートファジーが誘導されるものの、脱顆粒後には顕著ではなくなることが示された。イヌの肥満細胞腫から分離した細胞を低酸素あるいは低栄養環境で培養すると、ピルビン酸キナーゼ活性が上昇することから、解糖系が活性化していることが示唆された。イヌ肥満細胞腫細胞では、通常培養環境でも、他の腫瘍系細胞に比べても解糖系が活性化していることがわかった。さらに、様々な動物種の腫瘍性肥満細胞株を細胞障害性化合物で刺激すると、小胞体ストレス応答が惹起されることが確認された。本年度の研究から、肥満細胞では、腫瘍化により、解糖系の活性化や商法対すとれる応答を利用して、劣悪環境でも生存・増殖する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまで明らかにされていない肥満細胞のストレス応答機構や、腫瘍化した肥満細胞における生存・増殖維持機構を解析しており、当初の予定通り解糖系、小胞体ストレス、オートファジーに関する研究を遂行し、新知見が得られつつある。
これまでの研究を引き続き推進し、腫瘍性肥満細胞の生存と増殖を維持する新しいメカニズムを解析し、成果を学術論文として国際的学術雑誌に掲載するとともに、国内外の学術集会で発表して、広く成果を配信する。
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