平成24および25年度に引き続き以下の解析を進めた。 1. 低酸素反応性 マウス、ラット、イヌ、ヒトに発生した腫瘍に由来する肥満細胞株を、5%の低酸素環境で培養すると、一時的なHIFの安定化に伴い、血管進生因子VEGFの産生がmRNAおよびタンパク質レベル増強されることが明らかとなった。また同時に、IL-4に代表されるTh2型の炎症生サイトカインの産生が増強されることもわかった。このことは、腫瘍の増殖に伴う低酸素状態が肥満細胞を刺激することにより、周辺組織の炎症や血管進生を誘導することを示す。さらに、低酸素で培養することで肥満細胞の活性化と脱顆粒が誘導されること、特に相対的低酸素(高酸素から定常状態への移動を含む)が、極めて強い脱顆粒誘導刺激となることを発見した(学術論文投稿中)。 2. KITシグナルと細胞内代謝 KIT変異を有し自己活性化する肥満細胞株では、小胞体ストレス応答のうちのXBP1を経由するカスケードが亢進していることを明らかにしたが、解糖系の活性については細胞種ごとに異なっているため肥満細胞種に共通する事象は見いだせていない。しかしながら研究の過程で、KIT細胞外ドメインの一塩基置換(N508I)がKITのリガンド非依存的な二量体化を誘導すること、このような現象がヒトで報告されているEGF受容体の変異でも認められることを明らかにした。KITの二量体化と、活性化およびシグナル伝達は独立した事象として制御されており、N508IミュータントではSTI571を用いてリン酸化を止めても、二量体化はむしろ促進してしまうという現象も見つけた。この研究成果は、Scientific Reportsに受理された。
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