研究課題
基盤研究(B)
本研究は、ヒトと共通の疾病が自然発症するイヌに着眼し、ヒト再生医療の実用化を円滑に進め得るトランスレーショナルリサーチの一つとして、イヌ胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)の血液系再生医療に向けた応用的基盤技術の開発を目的としている。本研究年度では、ES細胞と類似の性状を有するiPS細胞を中心にして、イヌ胎子細胞からのips細胞株の樹立とその細胞生物学的諸性質の解明およびイヌiPS細胞から血小板への分化誘導技術の確立について検討し、以下の結果を得た。1.イヌ胎子線維芽細胞にレンチウイルス用いてC-MYC、SOX2、OCT3/4およびKLF4の4遺伝子を導入し、マウス胎子線維芽細胞をフィーダー細胞として共培養することで、iPS様細胞コロニーを得た。本コロニーはマウスiPS細胞と同様の立体型を示し、25継代以上まで維持できた。また未分化マーカーであるALP、Nanog、TRA-1-60およびSSEA4染色陽性を示し、RT-PCRでNANOG、OCT3/4およびES細胞特異的なREX1遺伝子の発現が確認された。さらに、浮遊培養により胚様体を形成し、その後の接着培養で三胚葉マーカーのいずれかの抗体に陽性を示し、これらの遺伝子を発現する細胞に分化することが確認された。長期継代後の染色体数は2n=78の正常2倍体で、性染色体は雄型を示した。2.上記で得たイヌiPS細胞を、造血サイトカインを分泌するOP9細胞株を播種したディッシュ上で、ES細胞分化培地に血管内皮細胞増殖因子を加えた培地を用いて14~15日間培養した。その後、幹細胞因子、ヘパリンおよびトロンボポエチン添加培地に替えて再播種した結果、ギムザ染色およびフローサイトメトリーによって成熟巨核球に分化することが確認された。また同時に、血小板マーカー陽性で、成犬血中の血小板と同様の大きさの粒子が観察され、電子顕微鏡で血小板構造を有していることが確認された。この血小板様粒子はフィブリノゲンとの結合能を有していることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
今年度に予定していた研究計画の(1)イヌ胎子細胞からのips細胞株の樹立とその細胞生物学的諸性質の解明、および(2)イヌips細胞から血小板への分化誘導技術の確立について概ね達成できたため。
今年度に引き続いて、(1)細胞の長期継代培養法および凍結保存法の確立、(2)piggyBacおよびドキシサイクリンを用いたリプログラミング誘導系によるips細胞の安定的樹立と細胞分化制御、(3)イヌ固有の幹細胞成長因子、穎粒球コロニー刺激因子などの特異的サイトカインを用いて、イヌES細胞・ips細胞から血小板および穎粒球等の血液系細胞へ効率的に分化誘導する技術の開発を目指す。
直接経費次年度使用額が生じた状況について、学外分担者への配分が9月中旬になったために、年度内にすべてを使用することができず、次年度に繰り越すことになった。次年度では、前年度からの繰り越し研究費と合わせてips細胞の作製や分化誘導細胞の性状解析に必要な高額な抗体や試薬の購入に、全体の研究費の約85%を消耗品費として計上する。また学会発表のための旅費、および学術雑誌投稿のための論文投稿料をその他費として計上する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (10件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Stem Cells and Development
巻: 22 ページ: 2026-2035
10.1089/scd.2012.0701
日本胚移植研究会誌
巻: 34 ページ: 9-18
http://kyoindb.acs.osakafu-u.ac.jp/profile/out.cudiDYHfHMO.PEVGDxV-iw==.html