研究課題
平成24年度は犬の組織球性肉腫細胞株の中にはoncogene addictionを有する株があることを明らかにした。このような細胞はダサチニブで著しく増殖が抑制されることから、ダサチニブの標的キナーゼのどれかに強く依存して増殖していることが示された。そこで、ダサチニブの標的機構を絞り込むため、Src、BCR-ABL、KITおよび細胞内シグナル伝達経路の最下流に位置するJAK-STAT経路、AKT経路、PI3K経路の異常の有無についてウェスタンブロッティングを用いた解析を行った。しかしながら、これらのシグナル伝達系に異常な活性化はみられなかった。平成25年度はダサチニブが標的とするキナーゼを網羅的に検索するため、犬の組織球性肉腫細胞株より抽出したタンパクを用いて二次元電気泳動解析/質量解析によるリン酸化蛋白質の網羅的解析を行った。この結果、犬の組織球性肉腫細胞株では14-3-3 protein gammaが恒常的にリン酸化していることが示され、このリン酸化はダサチニブにより抑制されることが明らかとなった。リン酸化した14-3-3 protein gammaは、DNA損傷チェックポイント機構におけるATR-Chk1-Cdc25A経路に作用して細胞周期を促進させることから、CHS-1細胞の増殖には14-3-3 protein gammaの恒常的なリン酸化が重要な役割を果たしていると考えられた。しかしながら、14-3-3 protein gammaはキナーゼ活性を持たずダサチニブの標的にはならないことから、ダサチニブはその上流のJNK経路のキナーゼに作用することで14-3-3 protein gammaのリン酸化を抑制し、CHS-1細胞の増殖を抑制したと考えられた。本年度の研究結果から犬の組織球性肉腫細胞はJNK経路のキナーゼに強く依存して増殖すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度は犬の組織球性肉腫細胞においてJNK経路のキナーゼを介して14-3-3 protein gammaの恒常的なリン酸化が起きていることを明らかにした。この分子機構は従来知られておらず、今回得られた新たな知見である。平成25年度は、当初予定していた分子機構の特定まで到達したことから、研究計画は順当に進展していると言える。
平成26年度は犬の組織球性肉腫細胞のみならず悪性黒色腫細胞についても同様の解析を進める。また、犬の組織球性肉腫細胞およびに悪性黒色腫細胞ついて、in vivoにおいてキナーゼ阻害剤の効果と作用機序について解析を進める予定である。さらに、臨床サンプルにおけるキナーゼ異常の特定と臨床例におけるキナーゼ阻害剤の効果についても検討する予定である。
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