本年度においては、昨年度に引き続き、国内のザゼンソウ群生地において、発熱状況の観察・調査や、肉穂花序における呼吸や根茎の活性等に関する解析を継続するとともに、工学的な観点から発熱制御に関する議論を行った。ザゼンソウの発熱性肉穂花序は、外気温の変動と逆相関を示す呼吸活性を示すことから、本植物の恒温性においては、ある種の温度センシング機能が働いていることが予想されていた。本年度においては、呼吸活性に関わる一連の解析から、本植物の恒温性メカニズムが、発熱反応と吸熱反応から構成される化学平衡を基盤としていることが判明した。すなわち、温度変化は、発熱レベルを制御する化学平衡の平衡点のシフトを引き起こすことが明らかとなった。温度センシング機能の実体は、温度による化学平衡のシフトそのものである。当該化学平衡については、肉穂花序から調製したミトコンドリアを用いた再構成系の構築にも成功し、今後、関連する化学平衡をより詳細に解析できるものと考えられる。これまで、恒温性を示す植物は、ザゼンソウのみならず、ハスやヒトデカズラなどが報告されているが、そのメカニズムは長い間不明のまま残されていた。本研究により、ザゼンソウを含む発熱植物の恒温性は、活性化エネルギーを指標としたルシャトリエの原理に基づき説明できることが明らかとなった。本成果は、発熱植物のみならず、生物の恒常性に関わる基本的なメカニズムとして大きなインパクトを持つものである。得られた成果は、英国科学誌Scientific Reportsに発表した
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