研究概要 |
本申請研究の目的は,入手容易なフェノールやポリフェノール類を原料にして,その水酸基を位置選択的にフルオロ基ヘイプソ置換する方法論を開発することである。本研究では,電子豊富なフェノール環ヘフッ素陰イオンを反応させる,という一見,非常識な反応を可能にする。さらに,フッ素導入と置換基導入(炭素骨格形成)の連続反応も開発する。創i薬に於ける含フッ素化合物の重要性を鑑み,また,フルオロ基は水酸基のbioisostereという視点から,創薬研究に資する含フッ素芳香族化合物の簡便合成法を提供する。平成24年度実施計画に基づき以下の成果を得た。 1.ビアリール環形成を伴うデオキシフルオロ化法の開発:架橋ビアリール骨格に酸素置換基が多数置換し,顕著な生物活性を有する天然化合物や医薬品が多数知られている。本研究では,この酸素置換基の一つをフルオロ基にイプソ置換するデオキシフルオロ化法を開発した。すなわち,置換カテコールを酸化・環化して2種類のフルオロ化前駆体を作り分けた。そのうち,一方にフッ素陰イオン等価体Deoxofluorを反応させると,求核的フルオロ化反応と転位を経るビアリール骨格形成反応が連続進行し,目的のビアリール環を有するフルオロ体を得た。もう一方のフルオロ化前駆体に酸化一求核的フルオロ化一還元の一連の変換を行うことで,上記フルオロ体の位置異性体を得た。次に,本法を応用して抗腫瘍活性物質N-acetylcolchinolならびにNSC51046の新規含フッ素誘導体を数種類合成し,本法の実践性を明らかにした。 2.ベンザインを経るフルオロ化:オルトシリルフェノールにNfFを反応させてフェノール性水酸基を反応系中で脱離基(ONf)に変換した。これにフッ素陰イオンが反応してベンザインを発生後,再度フッ素陰イオンを求核付加させることで水酸基をフルオロ基にイプソ置換するデオキシフルオロ化法を開発した。この際,ベンザインのフルオロ化にBu4NF・(tBuOH)4を用いることが,フッ素体を収率良く生成する鍵となることを見出した。また,この一連の反応をone-potで進行させることにも成功した。更に,ベンザインの隣接位の置換基によって,フルオロ化の反応位置が制御できることを見出した。 3.フェノールの水酸基からフルオロ基への求核置換:フェノールのパラ位酸化と続くフッ素陰イオンの求核的導入を現在,検討中である。
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