脂質過酸化産物は、高血圧や糖尿病など多くの疾患で生成し、さらにその代謝産物などが疾患の発症に関与することが報告されている。そこで本研究は、酸化ストレス疾患発症のメカニズム解明やその治療薬の開発を見据え、脂質過酸化反応の基点となる脂質ラジカルを個体から組織まで異なる階層間で検出するプローブを開発することを目的とした。昨年度までに、蛍光プローブを開発し、本プローブがMRI造影剤として機能することを見出した。そこで本年度は、疾患モデルへの適用を行った。動脈硬化モデル動物を作製し、本プローブを投与した。その後血管を摘出し、蛍光観察したところ、動脈硬化部位でプローブの蛍光強度が著しく亢進していることが分かった。さらに、この部位は、Oil Red O染色部位とよく一致していた。 一方で、MRI造影剤としての機能を評価したところ、試験管内とは異なり、動物組織では十分な造影効果は得られなかった。そこで、造影効果を高めるために、本プローブにGd造影剤を結合させた、新規化合物を開発した。その結果、MRIの緩和度が大きく上昇した。また、本化合物を動物に投与したところ、動脈硬化巣に蓄積していることが蛍光強度の上昇により確認できた。 以上の結果より、新たに開発した蛍光・磁気共鳴マルチプローブが、生体内外でのトレーサー分子として機能し、かつ疾患部位を捉えていることを明らかにできた。
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