研究実績の概要 |
本年度は神経細胞・グリア細胞・免疫細胞等で発現するTRPチャネルの病態生理学的知見として、主に以下のものを得て学会・原著論文等で発表した。 1, アストロサイトに発現するTRPチャネルとして、受容体活性化型Ca2+透過性チャネルであるTRPC6に焦点を当て検討した。その結果、血中に豊富に存在する生理活性脂質であり、脳内出血の病態時に脳実質で広く作用すると想定されるS1Pをアストロサイトに投与すると、特異的なGq共役型受容体である S1P2、S1P3が活性化され、TRPC6開口を介して流入したCa2+により惹起される細胞内シグナルが、ケモカインCXCL1の産生・遊離を促進することが明らかとなった。 2,大腸がん治療薬であるオキサリプラチン(OHP)によるTRPA1を介した急性冷過敏応答の詳細なメカニズムについて検討した。その結果、OHP (0.1 mM)存在下においてTRPA1発現細胞の過酸化水素への感受性が増大し、これはTRPA1阻害薬の投与やプロリン水酸化酵素(PHD)の遺伝子欠損により消失した。In vivo疼痛評価実験も併せて行った結果、OHPまたはその代謝産物であるシュウ酸が細胞内のPHDを阻害し、結果としてTRPA1が脱水酸化されることにより感受性が増大し、TRPA1過敏化を介してOHPによる急性末梢神経障害が引き起こされることが示された。 3.ミクログリアに発現するTRPチャネルとして、カプサイシン受容体であるTRPV1に焦点を当て検討した結果、カプサイシンの濃度依存的にミクログリアの走化性が増大し、これはTRPV1遺伝子欠損や、TRPV1遮断薬および活性酸素種除去剤の共処置により抑制された。更なる検討により、ミクログリアにおけるTRPV1の活性化はミトコンドリアの脱分極を引き起こし、発生した活性酸素種を介して走化性を向上させることが明らかとなった。
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