研究課題
神経系でのプロスタグランジン(PG)E2の作用として、発熱や痛覚過敏などが古くから知られていたが、近年、新たなPG作用として、脳の性分化、アルツハイマー病 (AD)増悪、海馬の神経新生(抗うつ性応答)、海馬シナプス伝達増強 が発見された。PGE2の作用は4種類の受容体 (EP1~EP4)を介して発揮される。申請者はこれまで、EP受容体欠損マウスを用いてPG作用の意義を解析し、例えばオス性行動やAD増悪にEP4受容体が関与することを同定してきた。しかし、EP受容体は脳内で広範に存在するため、PG作用の発現機構は不明であった。本研究の目的は、PGE2の神経作用が、どの部位・細胞の受容体を介し、いかなる分子機構により発揮されるのかを明らかにすることである。今年度の成果を以下に列記する。1)抗うつ刺激として用いられる電撃性刺激(ECS)が、視床下部腹内側核(VMH)ニューロンにおいて食欲抑制性遺伝子の発現誘導を来すことで、食物摂取ならびに体重増加を抑制することを発見した。さらに電撃性刺激(ECS)は、視床下部室傍核(PVN)ニューロンにおいてニューロペプチドCck、キナーゼPrkcb、Camk2a、転写因子Tcf4、トランスポーターAqp4等、特徴的な遺伝子の発現を変動させることを見出し、これらが抗うつ改善に関与する可能性を見出した。2)PGF受容体FP欠損母マウスが分娩を示さないことを利用して、出生が新生児脳のセロトニン濃度を低下させ、これが感覚系神経回路の形成の開始を制御することを見出した。3)PGE2がEP4受容体を介して視索前野ニューロンの突起伸長を促進し、これがアクチン結合性微小管束化因子spinophilinのリン酸化ならびに先導端への局在化と相関して起こることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、①遺伝子欠損マウスならびに②細胞特異的なトランスクリプトーム解析を駆使することで、プロスタグランジンによる神経回路形成機構の解明を最終目的としている。メインとする研究計画は、vitro解析系立ち上げの遅れにより当初計画に比べ遅れが見られるが、上記の方法を駆使することで、当初計画で予期せぬ以下の成果が得られた。(1)抗うつ刺激が視床下部特定神経核において特有の遺伝子発現プロファイルを変化させることを解明した。(2)出生によるセロトニン低下が感覚系神経回路の形成を制御することを明らかにした。こうした成果は、二つの解析法が奏功することを反映したものであり、次年度以降の解析で十分に遅れを取り戻せると判断し、総合的には概ね順調に進展している。
本研究は、①遺伝子欠損マウスならびに②細胞特異的なトランスクリプトーム解析を駆使することで、プロスタグランジンによる神経回路形成機構の解明を最終目的としている。上述のように、これら二つの解析法が奏功し、成果をえているため、次年度以降の解析で十分に遅れを取り戻せると判断し、このまま本解析を進めるものとする。
プロスタグランジンによる神経回路形成機構の解析は、in vitro解析系の立ち上げに難航し、in vivo解析を行うことができず、遅れが生じたため。in vitro解析系は既に立ち上げが完了し、次年度使用額分を活用して、in vivo解析を推進する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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