本研究の目的はアミロイドβペプチド(Aβ)のイオンチャネル形成能を探査することであった。まず、チャネル活性の測定のために人工脂質膜の系を構築した。小型チャンバー内に60μm程度の小孔を有するテフロンフィルムを設置し、穴の両側面にDOPE、DOPSの2種類の脂質で構成される人工脂質膜を形成した。電圧を印加後にベースラインのシフトが生じないこと、グラミシジンの添加によりチャネル活性が認められること、の2点の指標から適切に膜が形成されているかを評価し、その後の実験を行った。先行研究によりAβ40、Aβ42がチャネル活性を有することが報告されている。一方、Aβ43は神経毒性や凝集性が他のAβ分子種よりも高く、アルツハイマー病の病態形成に重要であることが知られているが、チャネル活性をもつかどうかは明らかでなかった。Aβ43をチャンバー内に添加したところ、数分後からスパイク状の波形が多数検出された。この結果より、Aβ43がイオンチャネル形成能を有することが示唆された。 また、チャネル形成能を調べるために、安定性・精製度の高いAβオリゴマーの作製に取り組んだ。5種類のAβ(Aβ40、Aβ42、Aβ43、Aβ3(pE)-40、Aβ3(pE)-42、(pE:ピログルタミン酸))を使用し、ペルオキソ二硫酸アンモニウムとルテニウム触媒を使用した光化学反応であるPICUP法により、Aβオリゴマーを作製した。分画範囲の異なる2種類のゲルろ過カラム、あるいはゲルろ過カラムと逆相カラムを使用した高速液体クロマトグラフィーによる精製法を確立した。Aβオリゴマーは難溶性のため、作製・精製操作を複数回行うことで調製した。確立した方法は、Aβオリゴマーの機能的意義の検討に有用であるだけでなく、アルツハイマー病モデルマウス脳内のAβオリゴマーの分離同定にも応用できる可能性がある。
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