研究課題
本研究では、機能未知のオーファンPLA2アイソザイムの機能を解明することを目的とした。(1) sPLA2-IIE: sPLA2-IIEは肥満の脂肪細胞に発現誘導されるMetabolic sPLA2であることを見出した。欠損マウスの解析から、sPLA2-IIEはリポタンパク質の微量リン脂質であるPE、PSを加水分解することにより,結果的にリポタンパク質の脂質運搬能を増加させ、脂肪組織や肝臓への脂肪蓄積を促進する働きがあることを明らかにした(Cell Metab in press:次年度業績に掲載)。(2) sPLA2群の中で独特の構造を持つsPLA2-XIIAはマスト細胞に最も高発現しているsPLA2アイソザイムであり、欠損マウスではマスト細胞依存性アナフィラキシー反応が部分的に低下することを見出した。また、カゼイン腹膜炎においてM1マクロファージの浸潤が低下すること、関節炎モデルにおいて有意な軽減が見られることを確認した。(3) 新規iPLA2であるPNPLA7はリゾホスファチジルコリンをグリセロホスホコリン(GPC)に代謝するリゾホスホリパーゼであり、欠損マウスはコリン欠乏症と酷似した脂肪肝・脂肪萎縮の表現型を示すことを見出した。本酵素は肝臓における内因性GPCとその下流のコリンの動員に必須であることが判明し、現在投稿準備中である。(4) 表皮特異的に発現している新規iPLA2であるPNPLA1の欠損マウスは深刻な皮膚バリア異常を来し、経皮的水分蒸散の増加のため、生後1日以内に脱水症状を起こして死亡した。皮膚の脂質解析の結果、本酵素は皮膚バリアに必須であるセラミドの代謝に関わることを強く示唆する結果を得た。一方、皮脂腺特異的なiPLA2であるPNPLA5については、皮脂の代謝に関わることを予測し、現在欠損マウスを作出中である。
2: おおむね順調に進展している
各種PLA2アイソザイムの欠損マウスの解析から、各酵素に特徴的な生理機能とその責任脂質代謝産物を捉えることに成功しつつある。sPLA2-IIEは10年以上前に分子的に同定されて以降、発現部位、酵素活性、機能に関する報告が皆無であったが、本研究においてこの酵素がsPLA2-Vと並んでMetabolic sPLA2として代謝制御に関わることを発見し、Cell Metabに採択されたことは高く評価できる。Atypical sPLA2であるsPLA2-XIIAについても同様に10年以上機能未知の状況が続いていたが、本研究から、本酵素が免疫細胞の調節に関わることがわかってきた。3種の新規iPLA2アイソザイムであるPNPLA7とPNPLA1については、それぞれ肝臓のGPC-コリン代謝、皮膚のセラミド代謝に関わることが明らかとなった。従来、PLA2ファミリーは一般に脂質メディエーターの産生に関わるものと認識されていたが、本研究の成果は、本ファミリーがより広範な脂質代謝の制御に関わることを明らかにしたものである。特に、本研究で取り扱っているiPLA2アイソザイムは、PLA2の定義ともいえる「グリセロリン脂質の2位のアシル結合の加水分解」とは異なる脂質代謝反応を触媒しており、従前のPLA2研究領域の固定概念から見ると革新的な発見といえ、学術的価値は極めて高い。
最終年度は、(1) sPLA2-IIE欠損マウスで見られる別の表現型(皮膚異常)の解析を進めるとともに、(2~4) 論文未発表のsPLA2-XIIA, PNPLA7, PNPLA1の3種の酵素について、それぞれが担う生命応答とその責任脂質代謝産物を同定することを目標とする。個別的には、(2) sPLA2-XIIAについては、本酵素による免疫制御(マスト細胞、マクロファージ)の全体像を解明する。(3) PNPLA7については、コリン代謝との関連について投稿準備中の論文を完成させ、更に欠損マウスで観察される中枢神経系の異常を精査する。(4) PNPLA1については、本酵素が触媒するセラミド代謝反応を特定することで、論文発表への土台と構築する。(5) 現在作出中のPNPLA5欠損マウスを樹立し、既に保有しているPNPLA5過剰発現マウスと合わせて、本酵素の皮脂腺における機能を解明する。
sPLA2-XIIA欠損マウスのバッククロスに時間を要し実際の解析を開始したのが秋以降となったこと、またPNPLA5欠損マウスに関してターゲティングベクターの構築に想定以上の時間を要しマウスの実験にまで辿り着かなかったことから、これらの欠損マウスについて当所計画していたvivo実験を次年度に回すこととなった。sPLA2-XIIA欠損マウスはバッククロスを終了し、既に興味深い表現型を観察していることから、これを推進する。PNPLA5欠損マウスについては、ES細胞のスクリーニング後にキメラマウス、更に欠損マウスへと駒を進める。その他の欠損マウスについては、当初計画に添って研究費を使用する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (22件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (2件)
Circ Res.
巻: 114 ページ: 493-504
10.1161/CIRCRESAHA.114.302319
J Immunol.
巻: 192 ページ: 1130-1137
10.4049/jimmunol.1300290
J Exp Med.
巻: 210 ページ: 1217-1234
10.1084/jem.20121887
Nat Immunol.
巻: 14 ページ: 554-563
10.1038/ni.2586
巻: 191 ページ: 1021-1028
10.4049/jimmunol.1300738
J Allergy Clin Immunol.
巻: 132 ページ: 729-736
doi: 10.1016/j.jaci.2013.02.018
オレオサイエンス
巻: 13 ページ: 23-29
実験医学増刊―病態の理解に向かうアレルギー疾患研究
巻: 31 ページ: 118-127
アレルギー・免疫
巻: 20 ページ: 38-48
細胞工学
巻: 32 ページ: 1265-1271
http://www.igakuken.or.jp/lipid/reseacch8.html
http://www.igakuken.or.jp/lipid/research9.html