研究課題/領域番号 |
24390033
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
武田 健 東京理科大学, 薬学部, 教授 (80054013)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 次世代 / 脳神経系 / 生殖系 / 酸化チタン |
研究概要 |
本研究の目的は、ナノ粒子の次世代影響発現機序を、脳神経系及び生殖系に焦点を当てて明らかにすることである。とくに、妊娠中母体から次世代への移行経路と影響発現に関わる分子機構を、実験動物にナノ粒子を投与したときに生じる影響の経時的変化及び組織・病理学的観点(超微小形態を含む)から検討することを目指している。当該年度に得られた主な成果は次の6点である。1)二酸化チタン及び酸化亜鉛ナノ粒子の妊娠期投与(皮下投与)による次世代中枢神経系への影響を、伝達物質(ドパミン系)に注目して比較解析した結果、ともにドパミン代謝物量ならびに代謝回転が亢進する一方で、酸化亜鉛ではドパミン自体の量は変化しないことが明らかになった。2)二酸化チタンの妊娠期投与(皮下)による次世代中枢神経系への影響について、大脳皮質やドパミン神経系が主要な標的になることを遺伝子発現変動パターンからも明らかにすることができた。3)カーボンブラックナノ粒子の妊娠期投与(点鼻投与)による次世代中枢神経系への影響として、脳血管周囲マクロファージの変化をPAS染色により定量的に評価できることが明らかになった。4)ナノ粒子を多量に含むディーゼル排ガスの妊娠期曝露により、次世代中枢神経系の大脳皮質に生じる細胞分化への影響を明らかにした。5)同様のディーゼル排ガスの妊娠期曝露により、次世代中枢神経系においてDNAメチル化状態の低下する領域が多く認められ、その標的にはreceptor activityやDNA bindingに関連する遺伝子が濃縮されている可能性が示唆された。6)銀ナノ粒子の妊娠期投与(飲水経口投与)による次世代雄性生殖系への影響を検討した結果、2週間で合計10μg/bodyの投与では顕著な影響が生じないことが明らかになった。以上の成果には、ナノ粒子の次世代影響の影響評価指標として有用なものが複数含まれていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題がおおむね順調に推進できていると言える理由は、複数のナノマテリアルの次世代影響を組織学的解析、網羅的遺伝子発現解析、エピゲノミクス解析により評価し、影響評価に利用可能なバイオマーカーの探索を進められているためである。脳や精巣におけるナノマテリアルの分布、細胞内の局在についても、電子顕微鏡やX線スペクトル解析によりマテリアルごとに順次進めている。とくに、母獣の気道から投与した粒子が次世代の脳の血管周囲細胞に与える影響については、予想を上回る明瞭な結果が得られつつある。ナノ粒子の次世代影響メカニズムとして重要な遺伝子やタンパク質の発現局在、ならびに、その発現及び活性を制御し得るマイクロRNA解析も遂行する準備を整えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られたデータを基盤として、本研究課題では残りの期間(2年間)でナノ粒子の次世代影響メカニズムを包括的に捉えることを目指す。まず、粒子の職業・環境的曝露として最も一般的であるとされる気道からの曝露を想定し、ナノ粒子の曝露実験として気管内投与ならびに点鼻投与を中心とした研究を進める。併せて、ネブライザーを用いた吸入曝露による影響評価も実施する。ナノ粒子の中枢神経系への移行・分布のメカニズムを明らかにするために、種々の生体高分子(タンパク質及び脂質)を結合させたナノ粒子をマウスに投与し、体内分布、次世代への移行や分布ならびに影響解析を並行して進める。初年度に継続して、母獣の気道から投与した粒子が次世代の脳の血管周囲細胞に与える影響に併せて、これに隣接する細胞に生じる影響の詳細を解析する。ナノ粒子の移動経路や取り込み機構については、各種電子顕微鏡をはじめとする分析機器を駆使して、体内でのナノ粒子の分布の超微細なレベルでの解析を継続する。さらに、ナノ粒子曝露の影響発現メカニズムを考える上で鍵となる細胞群を同定し、当該細胞レベルでの変化を捉える実験を進める。具体的には、凍結組織切片を用いてレーザーマイクロダイセクション法を活用して目的の細胞群を採取し、遺伝子発現変動をマイクロアレイ及び定量的RT-PCR法により解析する。得られる結果から、臓器レベルでの変化の原因となる細胞レベルでの変化を明らかにし、生体に対するナノ粒子の影響発現メカニズムの本質に迫る。
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