研究課題
本研究の目的は、ナノ粒子の次世代影響発現機序を、脳神経系及び生殖系に焦点を当てて明らかにすることである。とくに、妊娠中母体から次世代への移行経路と影響発現に関わる分子機構を、実験動物にナノ粒子を投与したときに生じる影響の経時的変化及び組織・病理学的観点(超微小形態を含む)から検討することを目指している。当該年度に得られた主な成果は次の3点である。1)カーボンブラックナノ粒子の妊娠期投与(点鼻投与)による次世代中枢神経系への影響が、脳血管周囲マクロファージのPAS染色像により定量的に捉えられることに加えて、これに隣接するアストロサイトに特徴的な変化(GFAP発現亢進)として現れることが明らかになった(Onoda et al. PLoS One 2014)。2)微量の二酸化チタンナノ粒子の妊娠期投与による次世代生殖系への影響ならびに粒子移行・蓄積量の用量依存性が明らかになった(Kubo-Irie et al. K Nanopart Res 2014)。3)銀ナノ粒子の妊娠期投与(飲水経口投与)による次世代雄性生殖系への影響を評価可能にするエンドポイントが明らかになった。以上の成果には、ナノ粒子の次世代影響の影響評価指標として有用なものが複数含まれていると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題を順調に推進できていると言える理由は、複数のナノマテリアルの次世代影響を組織病理学的解析・超微小病理学的解析ならびにタンパク質発現解析から新規の知見を得ることができているためである。その成果には、ナノ粒子の次世代影響の影響評価指標として有用なものが複数含まれていると考えられる。脳や精巣におけるナノマテリアルの分布、細胞内の局在についても、電子顕微鏡やX線スペクトル解析によりマテリアルごとに順次進めている。とくに、母獣の気道から投与した粒子が次世代の脳の血管周囲細胞に与える影響については、予想を上回る明瞭な結果が得られつつある。ナノ粒子の次世代影響メカニズムとして重要な遺伝子やタンパク質の発現局在、ならびに、その発現及び活性を制御し得るマイクロRNA解析も進めている。
二年間に得られたデータを基盤として、本研究課題では最終年度でナノ粒子の次世代影響メカニズムを包括的に捉えることを目指す。まず、粒子の職業・環境的曝露として最も一般的であるとされる気道からの曝露を想定し、ナノ粒子の曝露実験として気管内投与ならびに点鼻投与を中心とした研究を進める。併せて、ネブライザーを用いた吸入曝露による影響評価も実施する。ナノ粒子の中枢神経系への移行・分布のメカニズムを明らかにするために、種々の生体高分子(タンパク質及び脂質)を結合させたナノ粒子をマウスに投与し、体内分布、次世代への移行や分布ならびに影響解析を並行して進める。また、母獣の気道から投与した粒子が次世代の脳の血管周囲細胞に与える影響に併せて、これに隣接する細胞に生じる影響の詳細な解析を継続する。ナノ粒子の移動経路や取り込み機構については、各種電子顕微鏡をはじめとする分析機器を駆使して、体内でのナノ粒子の分布の超微細なレベルでの解析を進める。さらに、ナノ粒子曝露の影響発現メカニズムを考える上で鍵となる細胞群を同定し、当該細胞レベルでの変化を捉える実験を進める。具体的には、凍結組織切片を用いてレーザーマイクロダイセクション法を活用して目的の細胞群を採取し、遺伝子発現変動をマイクロアレイ及び定量的RT-PCR法により解析する。得られる結果から、臓器レベルでの変化の原因となる細胞レベルでの変化を明らかにし、生体に対するナノ粒子の影響発現メカニズムの本質に迫ることを目指す。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (19件) (うち招待講演 1件)
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