研究概要 |
本研究の目的は,内皮細胞の機能調節および重金属の毒性発現における亜鉛輸送体の役割を解明することであり,平成24年度は細胞増殖因子/サイトカインおよび重金属による亜鉛輸送体の発現調節・異常について検討し,以下の結果を得た。 1)細胞増殖因子/サイトカインによる亜鉛輸送体の発現調節:単層に培養したウシ大動脈内皮細胞において,線維芽細胞増殖因子(FGF-2)が亜鉛を細胞外から細胞質に輸送する亜鉛輸送体SLC39A8のタンパク質およびmRNAレベルで上昇させることが分かった。亜鉛輸送体(SLC39A1~14,SLC30A1およびSLC11A2)のうち,FGF-2に応答してmRNAの発現が顕著に上昇するのはSLC39A8だけであった。 2)カドミウムで処理した内皮細胞において,SLC39A8mRNA発現レベルが上昇し,タンパク質レベルでも濃度依存的な増加が認められた。SLC39Aファミリーのうち,カドミウムは特にSLC39A8 mRNAの発現を顕著に上昇させた。カドミウムを細胞内に輸送し得る二価金属輸送体SLC11A2およびカドミウムを細胞内から細胞外に輸送し得る輸送体SLC30A1 mRNAの発現には,有意な変化は認められなかった。他の金属(類)(亜鉛,銅,コバルト,水銀,メチル水銀,ヒ素,鉛)のうち,メチル水銀および鉛もSLC39A8 mRNAの発現を上昇させたが,カドミウムの作用が最も顕著であった。 以上の結果は,亜鉛輸送体の発現調節または発現異常が細胞増殖因子/サイトカインによる内皮機能調節や重金属(特にカドミウム)の内皮細胞毒性に関与することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,細胞増殖因子/サイトカインおよび重金属による亜鉛輸送体の発現調節・異常を検討し,SLC39Aファミリーのうち,SLC39A8がFGF-2およびカドミウムによって誘導されることを見出したことは,重要な発見であり研究は計画通り順調に進展した。しかしながら,誘導の分子機構に迫る結果を得ることはできておらず,成果は計画の範囲内にとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,亜鉛輸送体発現に対するFGF-2およびカドミウムの作用の研究について重要な進展があったが,そのメカニズム(SLC39A8誘導の分子機構)の解明が時間切れとなり,その分,研究費に残額が生じた。平成25年度は,その解明を,細胞増殖因子/サイトカインによる機能調節における亜鉛輸送体の役割の検討と併行して実施する。
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