研究課題/領域番号 |
24390034
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鍜冶 利幸 東京理科大学, 薬学部, 教授 (90204388)
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研究分担者 |
山本 千夏 東邦大学, 薬学部, 教授 (70230571)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体分子 / 整理活性 / トランスポーター / 毒性学 / 金属生物学 |
研究概要 |
平成24年度に亜鉛を細胞外から細胞内へ輸送する亜鉛輸送体SLC39A8の血管内皮細胞における発現が内皮細胞の増殖などの機能を調節する線維芽細胞増殖因子FGF-2によって誘導されること,および有害重金属カドミウムもまたSLC39A8の発現を誘導することを明らかにした。しかしながら,SLC39A8の誘導を介在する細胞内シグナル伝達については解明には至っていなかった。 今年度はまずこれに取り組み,カドミウムによるSLC39A8の誘導にはp38MAPK経路が関与していることを突き止めた。干渉RNAを用いてFGFをノックダウンした場合でも,FGF-2中和抗体を加えた場合でも,カドミウムによるZIP8 mRNAの発現の上昇が観察されたので,カドミウムによるZIP8の誘導は,FGF-2とは別の経路で起こっていることが示唆された。干渉RNAを用いてZIP8をノックダウンした血管内皮細胞内では,カドミウムの蓄積量は有意に減少したので,カドミウムに対する内皮細胞の感受性には,ZIP8が存在することだけでなく,その発現がカドミウムによって誘導されることが重要であることが示唆された。 カドミウムと他の重金属の相互作用を検討し,カドミウムの内皮細胞毒性が従来より知られている亜鉛だけでなく,マンガンによっても軽減されることを見出した。そこで次に,SLC39A8の発現がこれらの相互作用に関与する可能性を調べた。その結果,カドミウムーマンガン相互作用およびカドミウムー亜鉛相互作用の両方において,SLC39A8のカドミウムによる発現上昇がマンガン/亜鉛によって抑制することによってカドミウムの細胞内蓄積量が減少し,内皮細胞毒性が軽減されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の結果を引き継ぎ,カドミウムによるSLC39A8の発現誘導を介在する細胞内シグナル伝達を明らかにすることに成功するとともに,血管内皮細胞に対するカドミウムと他の重金属(マンガンおよび亜鉛)の相互作用メカニズムにSLC39A8の発現が重要な役割を担っていることを示すことに成功した。血管内皮細胞における亜鉛輸送体の役割の観点から重金属の内皮細胞毒性にアプローチしようとする本研究の目的に沿った重要な発見であり,順調な進展があったといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
細胞増殖因子/サイトカインによる亜鉛輸送体の発現調節について,現在,FGF-2およびTGF-βが重要な調節因子であることを見つけているが,その調節を介在する細胞内シグナル伝達経路の解明にはまだ不明な部分が残っている。これについて,経路をさらに詳細に検討し,同定する。 重金属の毒性軽減にはメタロチオネインの誘導が重要であるとされる。亜鉛輸送体SLC39A8の発現だけでなく,メタロチオネインの誘導も重要であると考えられる。メタロチオネインの誘導には転写因子MTF-1の活性化が不可欠である。しかしながら,MTF-1を活性化できるのは亜鉛イオンだけであり,カドミウムなど他のイオンはMTF-1を活性化できない。すなわち,カドミウムがメタロチオネインを誘導する機構には,亜鉛がMTF-1に供給されるメカニズムの活性化が必要であるが,その実態はほとんど分かっていない。そこで,平成26年度には,亜鉛を細胞外あるいは細胞内小器官から細胞質に輸送する亜鉛輸送体の発現がメタロチオネイン誘導に関与することを示したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に実施した実験は,量的には十分に多いものであったが,その内容が近かったために購入が必要な試薬等の消耗品は共通したものが多かった。そのため,物品費が当初予定よりも安価で済み,結果的に残額が生じた。 平成26年度は,メタロチオネイン誘導における亜鉛輸送体の役割を解明していくとともに,細胞増殖因子・サイトカインによる亜鉛輸送体の発現制御を別途調べていくことから,費用がかかることが予想されるので,これに繰り越し分も含めて使用する。
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