本研究では、動物で再現困難な特異体質性の薬物性肝障害(DILI)、特に増悪化して劇症化まで進むモデルの作製を目指している。前年度までに作製したキメラ型HLA-B*5701を導入したトランスジェニックマウス(以下5701-Tgマウス)では心臓や肺では導入遺伝子の高発現を認めたが、肝を含む他臓器での発現は極めて低かった。そこで、並行維持していた別系統のTgマウスについて各臓器でのHLA発現量を調べた。その結果、肝を含めた全身臓器で十分量のHLA発現を認めるTgマウス系統を見いだすことができた。また、陰性対照としてHLA-B*5703を導入したトランスジェニックマウス(以下5703-Tgマウス)の作出も行った。このマウスでは各臓器で十分量のHLA発現を確認できた。 将来的にHLA-Tgマウスでの薬物感作実験を行うためには、薬物自身が軽度に肝障害を惹起する必要がある。肝障害の惹起には自然免疫系の活性化が背景にあると考えられている。そこで、自然免疫を活性化するLPSと薬物の併用条件の検討と、その際に毒性が生じるメカニズムについても調べた。この結果、ラットにおいてはLPSを事前に単独してから薬物を投与することで軽度の肝障害に至ること、さらにその背景メカニズムとして酸化ストレスによる脂質過酸化、ミトコンドリアの膜透過性遷移が関わることを見いだした。加えて、臨床におけるDILIリスクにはミトコンドリア毒性に加えて胆汁酸蓄積も重要であるとの報告が最近なされたことから、この点についても検討した。ラットあるいはヒトサンドイッチ肝細胞に対し薬物曝露した毒性評価系を作製し、これを用いたDILIリスク予測精度を調べたところ、いずれでも臨床のDILIリスクを精度よく判定可能なことを確認した。本モデルマウスにLPSや胆汁酸、さらにはミトコンドリア毒性負荷を組み合わせることで、特異体質性肝障害の発症と増悪を再現可能な系が完成すると期待される。
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