本年度はアセトアミノフェンやエタノールの代謝を触媒するヒトCYP2E1の3'-非翻訳領域(3'-UTR)における一塩基多型変異(SNP)がmicroRNAによる認識に影響を与え、CYP2E1発現量の個人差の原因となっている可能性について検討した。当該SNPの遺伝子頻度は白人と黒人で約80%、日本人では約60%であり、高頻度で認められた。ヒト肝試料32検体を用いて、CYP2E1発現量とSNPとの関係を調べたところ、変異型をホモで有する検体ではCYP2E1 mRNAが低値傾向を示すものの、CYP2E1タンパク質発現量は高値傾向を示し、転写後調節の関与が示唆された。SNP領域に結合すると推定されるmicroRNAとしてmiR-570を見出した。3'-UTRを含むCYP2E1発現系を構築し、miR-570を過剰発現させたところ、野生型はCYP2E1タンパク質の発現が低下したのに対し、変異型は影響を受けなかった。したがって、miR-570は遺伝子型特異的にCYP2E1発現を制御していることを明らかにした。 胆汁酸合成に関わる還元酵素であるAKR1D1の3'-UTRにも複数のSNPが存在し、中でもrs1872930T>CのSNPを有するヒトでは肝臓中のAKR1D1発現量が高いことが示されている。この発現量の差にmicroRNAが関わっている可能性を検討した。両遺伝子型について、3'-UTRを含むAKR1D1安定発現細胞株を樹立し、microRNAを導入したところ、T型の細胞でのみ、AKR1D1mRNA発現量およびタンパク質発現量の有意な低下が認められた。また内因性のAKR1D1発現量へのmicroRNAの影響を調べるため、ホモT型のヒト肺癌由来A549細胞およびホモC型のヒト肝癌由来HepG2細胞へのmicroRNA過剰発現実験を行った。その結果、A549細胞でのみAKR1D1の発現量の有意な低下が認められたことから、当該microRNAは内因性のAKR1D1に対して遺伝子型特異的に発現を抑制していることを明らかにした。
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