研究課題
膜輸送体OCTN1の関与が示唆されるジメチルニトロサミン誘発性肝線維化モデルマウスにおいて、その生体内基質である食物由来抗酸化物質ergothioneine(ERGO)を経口投与したところ、線維化抑制効果が見られた。ERGOの体内動態を調べ、得られた情報から体内動態を記述する速度論モデルが構築できた。マウスにデキストラン硫酸を飲水投与し炎症性腸疾患モデルを作製したところ、臨床報告と同様、対照群に比べ血液中ERGO濃度が低下した一方、小腸組織中でのOCTN1の発現量は対照群に比べ増加した。発現量増加の原因の一部がOCTN1を発現する小腸粘膜下組織マクロファージの増加によることが示唆された。体重減少や腸管組織の長さが野生型とOCTN1遺伝子欠損マウスとの間で顕著な差が見られ、OCTN1が同疾患に機能的に関与することが示唆された。神経変性疾患との関連が示唆される神経幹細胞分化に焦点を当て、膜輸送体OCTN1とERGOの影響を検討した。マウス胚性腫瘍細胞株P19を神経系前駆細胞様に分化誘導後にOCTN1をノックダウンすると神経細胞マーカー陽性細胞の割合が減少し、アストロサイトマーカー陽性細胞の割合が増加した。一方で、ERGOを添加すると正反対の影響が見られた。マウス胎児大脳皮質由来神経幹細胞にERGOを添加したところ、神経細胞マーカー陽性細胞の割合が増加し、アストロサイトマーカー陽性細胞の割合が減少した。以上より、OCTN1やその基質ERGOは神経分化を促進することが示唆された。そこで、神経変性との関連が示唆されるうつ病モデルを作製しERGOを経口投与しその体内動態と抗うつ効果を調べたところ、ERGOは投与量依存的に脳内に移行することが示唆され、うつ病モデルにおいてERGOによる抗うつ効果が示された。以上よりOCTN1とERGOが種々の疾患と関連することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載の通り、ERGOを投与後の血漿、臓器中濃度推移を測定し、得られた情報からERGOの全身での動態を記述する生理学的速度論モデルを構築することができた。また、ERGOによる抗線維化効果を示す目的で、肝線維化モデルマウスを作製しERGOの効果を示すことができた。さらに、脳においてもOCTN1とERGOの神経幹細胞分化に及ぼす重要な役割を示すことができ、ERGOによる抗うつ作用も示された。このように本研究は種々の慢性疾患に及ぼすOCTN1の役割を解明しつつあり、研究計画通りに達成されている。
研究計画に従いERGOによる抗線維化作用をさらに実証するとともに、本年度示された炎症性腸疾患との関連においてもERGOによる作用を検証する。中枢でのOCTN1の役割が明確になってきたため、神経変性疾患モデルを作製し、OCTN1の役割とERGOによる効果を解明する予定である。
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