炎症性腸疾患(IBD)を中心に膜輸送体OCTN1の病態への関与を検討した。デキストラン硫酸誘発性IBDモデルマウスを作製したところ、OCTN1の生体内基質であり食物由来抗酸化物質であるergothioneine(ERGO)の血中濃度の低下が見られた。この現象はクローン病患者と同様であったことから、IBD病態解明の手がかりを得る実験系として妥当であると考えられた。さらに検討を進めたところ、小腸および大腸炎症部位でOCTN1の発現量増加とERGO量の増加が観察された一方、炎症臓器から採取した小腸粘膜固有層単核球細胞(LPMC)でもOCTN1が発現しERGOを取り込むことが示された。LPMCに含まれるマクロファージでのOCTN1の機能的発現は、マクロファージのモデル細胞株THP-1でも確認された。従って、IBDにおいてはERGOの吸収部位である小腸上皮でのOCTN1の高発現によりERGOの消化管吸収が増加する一方で、炎症部位に集積するマクロファージにもOCTN1が発現してERGOを取り込む結果、IBDでの血中ERGO濃度は正常時に比べ低下することが示唆された。以上の結果は、血中ERGO濃度のモニタリングが炎症部位へのマクロファージの集積を表すバイオマーカーとなりえる可能性を示すことから、IBDの病態を反映するバイオマーカー探索において、ERGOもしくは他のOCTN1基質を用いる妥当性が示唆された。IBDモデルをoctn1遺伝子欠損マウスでも作製したところ、野生型に比べ顕著な病態の悪化が観察されたことから、OCTN1がIBDに対して防御の働きを示すことが示唆された。本年度はこの他に、IBD治療薬5-アミノサリチル酸の消化管吸収の一部にOCTN1が関与することを示し、OCTN1がIBDのバイオマーカーのみならず治療薬の標的としても重要であることを示唆した。
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