研究概要 |
本年度は、以下の研究に取り組んだ。血管内皮において、細胞内機能脂質PI-3-Pを産生するPI3K-C2αは細胞内の小胞に局在することがしられていたが、その機能は不明であった。そこで、小胞トラッフィキングが関与する物質輸送及び細胞内シグナリングにおけるPI3K-C2αの関与を検討した。S1PはS1P_1(およびS1P_3)に結合してタンパクキナーゼAktを介してeNOSをリン酸化して活性化し、またRhoファミリーGタンパク質Racを活性化する。Racは、内皮細胞間接着部位におけるVEカドヘリン(VEcad)集合の推進を介してアドヘーレンス接合(AJ)を強化することにより血管透過性を抑制する。肺毛細血管内皮は、S1P_1の他にS1P_2を豊富に発現していることを見出した。非内皮細胞では。S1P_2は、S1P_1,S1P_3とは異なる方向にRac,Rhoを制御する。PI3K-C2αのS1P_1に及ぼす作用及びS1P_2の血管内皮作用を解析することにより、機能性脂質による血管障壁機能調節作用とその分子機構を解明することを目的とした。 その結果、PI3K-C2αはECのTGN、初期エンドソーム、クラスリン被覆小胞に発現し、PI3K-C2αノックダウンによりこれらの細胞内小器官膜のPI-3-Pレベルの低下、細胞内小胞運動の顕著な低下、特に接着分子VE-カドヘリンのTGNから細胞間接着結合部位への輸送障害、SIP1受容体エンドサイトーシスの低下とエンドソーム上での低分子量Gタンパク質シグナリングの障害が生じる結果、ECの遊走・細胞間接着・生存が損なわれた。S1P_2は血管内皮細胞において、S1P_1とは逆にAktしたがってeNOSのリン酸化を抑制した。血管内皮細胞におけるNO産生の増加はAJ崩壊をひきおこしたが、その機構として、AJを構成する主要な接着分子であるVE一カドヘリンの細胞内領域に結合してAJを安定化しているβ―テニンのニトロシル化を介していた。S1P_2はこの過程も抑制し、AJ崩壊を阻止した。 これらの結果は、PI3K-C2αにより産生されたPI-3-P及び脂質メディエーターS1Pの受容体S1P_2が、シグナル伝達や小胞輸送の調節を介して障壁機能を調節することを示した。
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