研究課題/領域番号 |
24390051
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
多久和 陽 金沢大学, 医学系, 教授 (60171592)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 脂質 / 循環器・高血圧 / 生体分子 / 生理学 |
研究概要 |
S1P2 受容体を中心としたS1P受容体の血管恒常性維持作用の解明については、血小板活性化因子やVEGFなどの血管障壁機能障害作用を有する生理活性因子が作用した場合、内皮のeNOSリン酸化およびNO産生が、S1P2 受容体欠損マウスで亢進していることを見出した。PAF処理細胞では、eNOSをリン酸化することが知られているタンパクキナーゼAktの活性化(リン酸化)が増加したが、この応答もS1P2 受容体欠損マウスで亢進した。この結果、細胞間接着接合装置アドヘレンスジャンクション(AJ)を構成するβ-カテニンのニトロシル化がひきおこされた。NO合成酵素阻害薬で前処置すると、β-カテニンのニトロシル化及びAJ崩壊の両方が阻害されたことより、β-カテニンのニトロシル化がAJ崩壊の引き金となると考えられた。β-カテニンのニトロシル化及びAJ崩壊はいずれもS1P2欠損細胞で増強していた。すなわち、S1P2 受容体はAkt-eNOS-NO経路を抑制することによって、血管を障壁崩壊から防御することが明らかになった。 PI3K-C2α研究については、内皮細胞におよぼすTGFβ作用におけるPI3K-C2αの役割を検討した。PI3K-C2αは、TGFβ受容体の足場タンパク質Sara陽性の早期エンドソームへの内在化、Smadのリン酸化と核移行、その後の遺伝子発現のすべての過程に必要であった。さらに、マウス個体レベルでのTGFβによるインビボマトリゲルプラグ内血管形成にも、PI3K-C2αは必要であった。これらの結果は、血管新生におけるPI3K-C2α作用の一部は、TGFβ作用を介することを示した。さらにPI3K-C2α の酵素機能産物であるPI-3-Pを脱リン酸化するホスファターゼについての探索を進め、候補分子を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S1P2 受容体の血管障壁機能維持作用を内皮細胞のレベルで解析し、S1P2 受容体が独自のシグナル伝達機構(Akt-eNOS-NO経路の抑制)により、過剰なeNOS活性化を阻害し、血管障壁破綻を防止することを初めて明らかにすることができた。これにより、S1P2 受容体の血管恒常性維持にはたす役割を解明できた。また、血管形成に必須であることを見出した新規PI3Kの血管形成因子TGFβの作用における役割を解明できた。さらに、PI3K-C2αの産物PI-3-Pの分解酵素(ホスファターゼ)を同定できた。研究の進捗は、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
S1P受容体に作用して急性血管障壁機能破綻を防止する薬物の同定を試みる。また、昨年度はアナフィラキシーメディエーターによる血管障壁機能破綻をモデルとして用いたが、敗血症時の血管障壁機能破綻の原因物質であるリポポリサッカライド(LPS)投与モデルにおけるS1P2の役割との差異を明らかにする。PI3K-C2α研究においては、最近明らかにされたPI-3-P以外の酵素産物、すなわちPI-3,4-P2との機能の違い、PI3K-C2αのアイソフォームであるPI3K-C2βとの機能的差異、PI-3-P分解酵素の細胞内機能を、遺伝子改変マウス、細胞生物学的手法などを用いて明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額が少額すぎて研究に必要な物品購入額に達しなかったため 研究を行うために必要な物品の購入に使用する
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