研究課題/領域番号 |
24390055
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
本間 さと 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (20142713)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体リズム / 視交叉上核 / 時計遺伝子 / イメージング |
研究実績の概要 |
哺乳類の生物時計が局在する視交叉上核(SCN)において、時計遺伝子転写翻訳フィードバックループに依存しないリズム発振の発見と、時計遺伝子Cryが発達依存的な振動細胞ネットワークに関与するという我々の発見に基づき、生物時計が成長に伴い質的に異なる時計システムを形成するに至る分子・細胞基盤を明らかにすることを目的として行われた。H24、25年度の研究で、新生児期にSCNから分泌される液性因子の中でも主要ペプチドであるAVPとVIPが有力候補であることが示唆され、一方、DEC1,DEC2による分子ループの代償は存在しないことが分かった。H26年度は、振動細胞ネットワークの発達に関与する細胞間シグナルとしてのAVP, VIPの役割を集中的に検討すると共に、細胞内シグナルとしてのCa++の役割を検討した。 AVPの役割については、AVP-ELucノックインマウスを用い検討した。本マウスは、ホモ接合体はAVP欠損マウスとなり、培養SCNでは、概日振動には問題がないがAVPの液性情報を欠損している。そこで、成獣CRY欠損マウスに新生児AVP-ELucホモ接合体SCNを共培養したところ、野生型のようなリズム回復は見られず、AVPの重要性が示された。 VIPの役割については、VIP受容体ノックアウトマウスとCRY欠損マウスを交配したCry1/2-/-/VIP-/-を用い、新生児の発光リズムを細胞および組織レベルで検討した。その結果、Cry1/2-/-/VIP-/-ではリズム発現が見られず、新生児期のCRYに依存しない概日リズムの細胞間同調にVIPによる情報伝達が必須であることが明らかとなった。 PER2リズムが観察される新生児期には、細胞内カルシウムレベルにも低振幅ながらリズムが観察され、同期に関わる細胞内情報伝達やリズム出力に関わる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発達に伴うSCNの生物時計の質的な変化に、SCNにおける主要ペプチドAVPとVIPが関与すること、特に、ペプチドにより作用時期が異なることを明らかにした。CRY遺伝子を欠損しても、これらペプチドとその受容体を介するSCN内のローカルなネットワークが、細胞が本来もつノイズ成分の多い振動体をカップリングし、安定した概日振動を維持するというメカニズムがほぼ明らかになった。このため、当初の研究目標は十分に達することができた。この間、AVP遺伝子のレポーターマウスの作成、マクロイメージングシステムの構築などの技術的な成果もあがった。しかし、新規に導入したマクロイメージング機器のセットアップに手間取ったこと、測定開始後に、ステージ上のミニ恒温槽に温度ムラに依存する結露が生じることが分かり、結露が生じない温度条件を試行錯誤で見出すのに時間がかかったこと、などから、マクロ撮像による実験の一部を平成27年度に繰り越すこととなった。結露の問題はすでに解決済みであり、CRY欠損マウスの出産を待って、実験を重ねており、CRYに依存しない振動の出力系についても、明らかにすることができる見込みはついた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に繰り越した研究については、出産数の少ないCRY遺伝子欠損マウス新生児を用いるため、一気に大量のデータを得ることはできないが、着実に成果をあげており、年度末を待たずに成果を発表できる見込みはついている。 一方、本研究の今後の推進については、個々の振動はヘテロで不安定なSCN神経細胞が、生物が示す各種振動の中でも圧倒的精度をもつ概日時計を構成するに至る自己組織化メカニズムを、発達過程より変化する細胞間同調因子から研究を進める。特に、SCN内部位特異的なcoreとshellの振動体に加え、dorsalとventralの振動体間の同期、左右の振動体間の同期、それぞれの特徴的な乖離とその再同調、遺伝子変異による障害に注目して検討する。本研究の成果は、ヒトの時差飛行や交代勤務に伴う時差症状の治療や予防法の開発に大いに役立つと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
視交叉上核(SCN)細胞リズムの発達に伴う同期障害の分子機構検討のため、SCNと他の脳部位の同時発光イメージングが可能なMultiVersaインキュベーターシステムを5月に導入したが、カメラ冷却装置の不備で測定開始が6月にずれ込んだ。さらに、条件検討の過程で、ディッシュ内の結露による組織障害と画像ムラが生じた。原因である恒温槽内の温度調節に時間を要し、最適条件による本実験開始が9月にずれ込んだ。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(300,000円)は、試薬、組織培養用メンブレン、ディスポチューブ、チップに、旅費(300,000円)は中国出張における成果発表(4-5月)および睡眠学(7月、宇都宮)における成果発表に、人件費(150,000円)はデータ入力、解析および実験動物飼育補助に、その他(150,000円)は動物飼育経費、論文添削および投稿料に用いる予定である。
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