哺乳類の生物時計が局在する視交叉上核(SCN)において、時計遺伝子転写翻訳フィードバックループに依存しないリズム発振の発見と、時計遺伝子Cryが発達依存的な振動細胞ネットワークに関与するという我々の発見に基づき、生物時計が成長に伴い質的に異なる時計システムを形成するに至る分子・細胞基盤を明らかにすることを目的として行われた。H27年度は、振動細胞ネットワークの発達に関与する細胞内シグナルとしての細胞内カルシウムイオンの役割を検討した。 CRY1/2ダブルノックアウトマウスとPER2::LUCマウスを交配し、PER2::LUCレポーターを有するCRY欠損マウスを作製した。その新生児SCNスライスを培養し、神経細胞特異的にGCaMP6Sを発現するアデノ随伴ウィルスを感染させ、発光、蛍光に加え、マルチ電極システム(MED64)を用いて自発発火活動を同時計測した。その結果、CRY欠損マウスにおいて、PER2、カルシウムレベル、電気活動のいずれも概日リズムが観察された。しかし、野生型と異なり、カルシウムリズムと電気活動の間に位相差がほとんど見られなかった。また、周期、位相関係は、day-to-dayの変化が有意に大きく、振幅も低かった。さらにカルシウムリズムとPER2リズムには発現部位に差異があることも明かとなった。CRY蛋白が、細胞間ネットワークシグナルを低下させ、これにより入力系の低下が細胞内カルシウムレベルの低下を引き起こしたこと、また位相差が入力系によってもたらされることが示唆された。
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