研究実績の概要 |
薬理学あるいは生命科学領域において、新たな生理活性物質を発見し、その生体内における役割、および病態生理学的意義を明らかにすることは最も重要な課題の一つである。ドーパは従来、もっぱら神経伝達物質ドパミンの前駆体としてのみ位置付けられ、それ自体は活性がないと考えられてきた。我々は、ドーパが神経興奮に応じて遊離されること、ドパミンへの変換を介さずに一定の薬理学的応答を惹起すること、ドーパ作用を競合的に阻害する拮抗薬が存在することを示し、ドーパ神経伝達物質仮説を提起した (Misu and Goshima, 1993)。従来までに、ラット孤束核 (NTS) におけるOA1のshRNAによる発現抑制が、同部位に微量注入したドーパが惹起する血圧下降・徐脈応答を抑制する一方、グルタミン酸を微量注入した際の同様の心血管応答には無作用であることを証明した(Hiroshima et al, 2014)。当該年度においては、oa1遺伝子欠損マウスの作製に成功し、同マウスの表現型解析を行った。同欠損マウスにおいて、NTSにおけるドーパ応答が欠失していることを確認した。また野生型、oa1遺伝子欠損マウス個体間の比較を行い、抗OA1抗体による免疫染色陽性像が、海馬、大脳皮質、視床下部、手綱核、下位脳幹部などの中枢神経系のみならず、肝臓、腎臓、脾臓、肺などの末梢臓器にも存在することが明らかになった (Fukuda et al., 2015)。さらに、oa1遺伝子欠損マウスにおいては、フェニレフリンによる昇圧応答が減弱することを発見した。この知見を契機として、OA1が血管作動性物質に対する感受性を制御することを示唆する結果を得つつある。本結果は、OA1が生体内において血圧調節を含む自律神経系機能調節に一定の役割を果たす事が明らかとなってきた。
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