研究課題/領域番号 |
24390064
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
岩尾 洋 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00137192)
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研究分担者 |
泉 康雄 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10347495)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マクロファージ / エクソソーム / 心リモデリング / HIF-1alpha |
研究概要 |
さまざまな薬剤が開発されているにも関わらず、心不全の進行を完全に抑制することは出来ない。その原因は慢性炎症時の細胞間コミュニケーションに係わる液性因子(アンジオテンシンII(AngII)、サイトカイン、増殖因子)の作用を抑制する従来の方法では不十分であることによる。本研究では、細胞間コミュニケーションに係わるもう一つの重要な要素であるエクソソーム(microRNAや液性因子を含有する細胞外小胞)に焦点を当て、エクソソームによる細胞間コミュニケーション機構を解析することにより、心不全の病態解明と治療標的を探ることである。 ラットにAngII持続投与および一酸化窒素合成酵素阻害薬の飲水投与による高血圧モデルを作製し、血中エクソソーム解析をおこなった。高血圧ラットの血中エクソソーム量は、コントロールに比べ1.5~2倍増加しており、また高血圧マウスにおいても同様の変化がみられた。次に、マウス血中エキソソームの含有タンパク質をWestern blot法で解析した。その結果、マクロファージなど骨髄由来細胞に高発現するCD45が血圧の上昇に伴ってエキソソーム中に多く取り込まれていることが示唆された。CD45は、AngIIによって刺激された培養マクロファージの分泌エクソソームにも存在したことから、マクロファージと心組織を形成する細胞間コミュニケーションにエクソソームの関与する可能性が示唆された。また、高血圧マウスの血中エクソソームは、短時間で血管内皮細胞のMAPキナーゼを活性化させ、細胞障害マーカーとして知られるICAM-1の発現を増大させた。マクロファージは、本モデル動物の左心室の線維化部位にも浸潤していることが確認されており、さらに今後、マクロファージの分泌エクソソームについて詳細に解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々の高血圧モデル動物(ラットまたはマウス)を作成し、血中エクソソームの解析を計画通り進めている。また、血中にマクロファージ由来のエクソソームマーカーの存在を明らかにした。さらに、蛍光ラベル化したエクソソームを用いて、培養細胞での取り込みおよびマウスを用いた体内動態の解析を行っている。培養細胞では、1時間後に取り込みが観察されはじめ、3時間後に取り込みはほぼ最大になっていた。一方、マウスの静脈内に投与したエクソソームは、脂肪組織で検出されたが、心組織で検出されていない。今後、エクソソームの体内動態解析を進める。 我々は、血中エクソソームを精製し、エクソソーム中に含まれるタンパク質量を定量することで、高血圧に伴うエクソソーム量が増加することを見いだした。しかし、血中エクソソームは夾雑物が多く、LC-MSによる網羅解析が出来ていない。そこで、純度の高い血中エクソソームの分離・精製法を確立し、タンパク質の発現解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、作製した高血圧モデル動物の血中エクソソームの解析(1)-(3)および細胞培養系でのエクソソームの役割解析(4)を行う。 (1) 血中エクソソームの分離・精製の確立:血中のエクソソームは夾雑物が多く、エクソソーム中のタンパク質の発現解析には、純度の高いエクソソームを精製することが重要である。そこで我々は、ゲルろ過法を用いたエクソソームの簡便な分離・精製法の確立を進める。 (2) エクソソーム中のmicroRNAの解析:これまで培養マクロファージのエクソソームに含まれる数種のmicroRNA量が、angiotensinIIにより変化することを見いだしている。これらのmicroRNAに着目し、モデル動物の血中エクソソーム中での発現解析を行う。 (3) エクソソームの動態解析:エ血中にクソソームが存在することはよく知られているが、血中エクソソームが組織に移行して、各部位でどのような作用を発揮するかは十分に研究されていない。我々は、蛍光ラベル化したエクソソームを用いて、その体内動態を明らかにする。また、健常時と高血圧時でのエクソソームの体内動態を比較し、高血圧により増加するエクソソームの役割を明らかにする。 (4) 異種細胞間相互作用の解析:これまで、マクロファージ由来エクソソームが血管内皮細胞に及ぼす影響を明らかにしてきた。次年度は、本エクソソームが、心筋細胞に及ぼす影響を詳細に解析する。具体的には、トロポニンタンパク質の発現を解析し、心筋細胞を評価する。また、リン酸化シグナル経路を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
PKH26試薬を用いて蛍光ラベル化したエクソソームの体内動態を解析した。しかし、十分な蛍光強度が得られず、心組織での存在を捕らえることができなかった。心組織切片を共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果、蛍光ラベル化エクソソームは、自家蛍光と区別つかなかった。そのため、より蛍光強度の高いラベル化エクソソームを用いる必要があると考えられた。 そこで、体内動態を解析するための動物実験を次年度に延期することとした。また、同時に、血中エクソソームのゲルろ過による分離・精製法の確立のため、本モデル動物を用いる予定であった。そのため、これらに関わる試薬等を次年度使用額に計上する。 次年度は、培養細胞にエクソソームマーカータンパク質と種々の蛍光タンパク質の融合タンパク質を発現させ、蛍光標識したエクソソームを精製する。これらのエクソソームを用いて、体内動態解析を行う。具体的には、融合タンパク質を発現させるためのplasmidを構築し、これらを形質導入した細胞の培養上清からエクソソームを精製する。 また、健常および高血圧モデル動物に上記エクソソームを静脈内投与し、心組織を中心に各組織でのエクソソームの局在を解析する。 次に、作成したモデル動物の血液から純度の高いエクソソームを分離・精製し、外因性のラベル化エクソソームと内因性のエクソソームをそれぞれ解析する。
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