研究課題/領域番号 |
24390070
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮園 浩平 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90209908)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞医化学 / ゲノム医化学 / 細胞内シグナル伝達 / 発生医学 |
研究概要 |
BMPは多彩な作用を発揮する生理活性物質である。本研究では、マウス胚性幹細胞(ES細胞)とその細胞より分化したマウス胚盤葉上層幹細胞(EpiSC)様細胞の2種類の細胞を利用し、細胞種依存的に多様な機能を果たすBMPシグナルの詳細な分子機構の解明を目的として研究を行った。 1)既に得られていたSmad1/5 のChIP-seqのデータとRNA-seqのデータをもとに、ES細胞においてSmad1/5とゲノム上で共局在が予想される転写因子に注目して解析を行った。転写因子Nr5a2に注目して解析したが、Nr5a2単独のknockdown実験ではES細胞の未分化状態に顕著な変化を認めず、類似の機能を有する転写因子の重複の可能性などが考えられた。さらに同様のスクリーニングを進め、複数の転写因子に注目した。これらの転写因子に関しても、Nr5a2同様に共免疫沈降実験やBMP応答配列を有するBRE-lucでBMPシグナルに与える影響を検討し、BMPシグナルを抑制する機能を持つものを同定した。同時に、EpiSC様細胞や他の分化細胞におけるSmad1/5のChIP-seqデータとの比較から、マウスES細胞ではSmad1/5が他の転写因子を介して間接的に標的領域を認識していることが推測された。一方、非Smad経路と呼ばれTGF-β/BMPにより活性化されるキナーゼに関しても低分子阻害薬を用いたスクリーニングを行い、BMPの下流で幹細胞の自己複製に関係する候補キナーゼを同定した。 2)ES細胞とEpiSC様細胞で行ったRNA-seqデータから、既知遺伝子だけではなく長鎖非コードRNAの発現量や、スプライシングバリアントを評価した。EMTのモデル系として確立されたNMuMG細胞でも同様の解析を行い、TGF-βにより転写調節をうける新規長鎖非コードRNA、lncRNA-Smad7を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ChIP-seqやRNA-seqのデータ取得や得られたデータの解析など、当初計画に沿っておおむね順調に研究は進展している。プロテオーム解析手法によるES細胞、ESD-EpiSC特異的Smad1/5結合蛋白の同定については、平成25年度までにSmad1蛋白精製法を改善し、FLAG-HA-Smad1安定発現株を利用して抗FLAG抗体、抗HA抗体で免疫沈降するTandem Affinity Purification(TAP)法を確立した。ES細胞でSmad1結合蛋白を精製し、MALDI-TOF/MS法でSmad1結合蛋白を同定した。この結果Dhx15等の蛋白が同定されたが、mRNAレベルで比較した場合ES細胞とEpiSC様細胞の両者で同程度の発現量だった。従って、2つの幹細胞の差異を説明しうる因子の可能性が低いと考えられ、今後はChIP-seqやRNA-seqで同定した転写因子の解析を優先することとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は当初の計画に沿って研究を推進する。Nr5a2を含めた候補転写因子の中で、Smad経路阻害に関して生理的に重要なものを同定する。既知のES細胞におけるChIP-seqデータとの比較や、当該転写因子のknockdown実験により、候補転写因子の中で真に重要なものを見出す。また、非Smad経路の構成因子に関してもknockdown実験等のloss-of-function実験や恒常活性型を用いたgain-of-function実験を行う。lncRNA-Smad7に関しては、マウスでの移植実験などを行い、in vitroだけでなくin vivoでもlncRNA-Smad7の機能を確認する。ES細胞、EpiSC様細胞の制御分子について、がん細胞およびがん幹細胞における役割を探索する。Nr5a2など本研究で同定された候補転写因子に関して、各種がん細胞とそのがん幹細胞における機能を、in vitro、in vivoで解析する。以上の結果をとりまとめ論文発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
プロテオーム解析手法によるES細胞、ESD-EpiSC特異的Smad1/5結合蛋白の同定に関してはいくつかの手法の改善を行い結果を得たが、得られた遺伝子は2つの幹細胞の差異を説明しうる可能性が低いと考えられた。このため、ChIP-seqやRNA-seqによって得られた遺伝子に焦点を絞って研究を行ったために物品費が予定より低く抑えられた。 平成26年度はChIP-seqやRNA-seqによって得られた遺伝子の機能解析をin vivoの実験を含めて行いつつ、成果をまとめる予定である。
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