研究課題
担癌ストレスに対する巨核球応答を調べるため、マウス卵巣がん由来の細胞株、ID8VEGF164 と IG10ip1を用いてマウスの癌移植実験を準備したが、細胞が不調で十分な培養が出来ず、移植実験を行うことが困難であった。そこで、担癌ストレスによる巨核球応答に変えて、慢性炎症モデルマウスを用いて巨核球応答を調べるということにした。そこで、本年度は、2種類の慢性炎症モデルマウスを用いて、それらの造血細胞の解析を実施した。一つは、ダイオキシン受容体の恒常的活性化型因子が皮膚ケラチノサイトで過剰発現するトランスジェニックマウスK14-AhR-CAマウスであり、同マウスは、典型的なアトピー性皮膚炎を生後1ヶ月あたりに自然発症する。このマウスの骨髄を解析したところ、造血幹細胞の活性化、前駆細胞の増加、顆粒球系と単球系への分化の亢進が観察された。血小板数はあまり変化していなかった。もう一つのモデルは、FoxP3の変異マウスであるScurfyマウスであり、同マウスは、Treg細胞の分化不全による重度の自己免疫疾患を発症して生後3週目あたりに致死となる。このマウスの骨髄を解析したところ、やはり、造血幹細胞の活性化、前駆細胞の増加、顆粒球系と単球系への分化の亢進が観察され、さらに、T細胞への分化亢進が認められた。このマウスにおいても血小板数の大きな変化はみとめらなかった。今後、血小板の活性化の増強を、セレクチンPの細胞表面への露出や、血小板―白血球複合体の形成などをモニタリングすることで明らかにする。また、巨核球の分化の程度を、形態、ploidy、遺伝子発現などの解析により評価する。
2: おおむね順調に進展している
担癌ストレスを調べるための実験が細胞の不調のため難しくなってしまったが、それに変わるべく慢性炎症モデルマウスを入手し、その解析が順調に進んでいる。これにより、慢性炎症の増悪因子としての血小板と巨核球の貢献を明らかにすることができると予想される。こちらのほうが本来の目的である巨核球と血小板による炎症の増悪機構の解明により相応しい実験系であると考えられる。
K14-AhR-CAマウスの解析造血組織の解析を更にすすめる。特に血小板の活性化状態、巨核球の分化状態を、細胞生物学的、生化学的な手法により検討する。特に、p45-MafGの標的遺伝子の発現レベルに着目して解析をすすめる。また、近年、造血幹細胞から巨核球が直接分化する場合があることが報告された。そこで、慢性炎症に伴い、造血幹細胞の性質が変化することで、巨核球への分化態度に変化が合われるかどうかを検討する。さらに造血幹細胞の移植を行い、慢性炎症による血小板産生に対する幹細胞応答の寄与を評価する。Scurfyマウスの解析基本的には、K14-AhR-CAマウスと同様の解析を行う。ただし、こちらのマウスでは、FoxP3の遺伝子変異による直接的な影響を否定するために、正常はT細胞移植により炎症を改善した場合に、造血組織が正常化することを確認しておく。
本年度は、当初予定していた、がん細胞の移植による巨核球応答を調べる、という実験が、がん細胞の培養が不調であったために実施できなかった。そこで、研究の方針を一部変更して、担癌ストレスに対する巨核球の応答に変えて、慢性炎症に対する巨核球の応答を調べることにした。そのため、当初予定していた研究費を全て執行する必要がなくなった一方、平成26年度には、慢性炎症モデルマウスを用いた実験が拡大すること、さらにその骨髄移植実験を実施するために、マウスの飼育費が増大することが予想される。そこで、平成25年度に使用予定であった経費を平成26年度に使用することにした。本年度使用予定であった予算は、平成26年度のマウス購入費とマウス飼育費を中心に執行する。一部は、マウス解析のためのフローサイトメトリー用の抗体の購入費にも使用する予定である。
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